表現スタッフ日記
展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【Ω食草園】
2003年8月13日
村田英克
 地上4階、食草園はぐるりと回廊でかこまれ、四角く切り取られた青空とつながっている。コンクリートの建物を越えて蝶々は舞い込んで来る。すぐに行ってしまうこともあるし、ちょうどタイミングがあえば卵を産んでくれることもある。地上から数十センチが生活域だと聞いていたシジミチョウも現れる。蝶は幼虫が食べる植物を識別しそこに卵を産む。その植物を食草と呼び、食草は蝶の種類によってみな違う。公園のクスノキにはアオスジアゲハ、キャベツ畑にはモンシロチョウ、そして花壇のスミレにはツマグロヒョウモン、カタバミにヤマトシジミ。みな、私たちの身近に暮らしている。館ではこの春から蝶々のために種類ごとにわけて食草を育てた食草園をつくりました。
 食草園には蝶も来るが、蝶の捕食者も来る。また、蝶のためにと思うのはこちらの勝手で、同じ食草を栄養とする生きものもたくさんいる。いっそのこと食草園全体をネットで囲んで外部から隔離してしまえば、蝶の楽園に・・・、しかしそうではなく、地域の自然、外の環境と向き合って、そのつながりの中で食草園を維持していくという行いが大切なのだと思う。自然は良いもので、人為的なものは良くないということはない。コンクリートの屋上に土を盛って食草を育て蝶をよぶ食草園は、ありのままの自然ではないが、それによって、環境や他の生きものとのつながりを確かめることができる。ここに産みつけられた卵から育ったモンシロチョウは、囲いがあるわけでもないのに毎日ここでひらひら舞っていた。シオカラトンボは蝶を捕食し、コバチに寄生され成虫になることなく終わる命もある。運良く蝶になれたものは、外へ行ってしまうものも多いが、また交尾し食草を探して産卵する。小さな自然だが、毎日いろいろなドラマがあり、世話をしていると喜びもある。
 身近な食草をこうして1ヶ所に集めて、わかりやすく並べ身近な蝶をよび寄せる。蝶と食草の関係についての知識は、私たちの日常からは忘れられていて、それでほとんど困らないのが私たちの毎日なのですが・・・。しかし、ここへ来た人々が、この「生きた仕掛け」から、何かを感じ、考え、持ち帰る。そういう「庭」であって欲しいと思って、今日もまたΩ食草園の世話をする。


(パピヨンのレストラン「Ω(オメガ)食草園」は、中村館長のオメガアワード2002受賞を記念し屋上につくられました。次の生命誌カードでも紹介していますので、是非ご覧ください。)



[村田英克]
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