表現スタッフ日記
展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【化学物質は何種類ある?】
2003年3月15日
鳥居信夫
 この日記の当番がまわってくると、ネタがあるときはいいが、ないときは何を書こうかとついあれこれと悩んでしまう。今回も何を書こうかと考えていると、ちょうどタイミングよく「未来材料」という素晴らしい雑誌が送られてきた。私はもともと化学分野の出身で、学部時代には有機材料工学を、修士時代には高分子合成を専攻していた。「未来材料」は修士時代の恩師である遠藤剛先生が編集人を務めておられる雑誌で、私にも送って下さっているのだ。
 これを見て思ったことは、化学も進歩したなということ(修了から10年以上たっているのだから当然だ)と、本当にいろいろな化学物質があるなということ(当然だが、改めて感心した)だ。化学物質は一体地球上に何種類くらいあるのだろうか?種類が多いのは当然だが、その“多さ”に対するイメージは人によってかなり違うのだろうか。
 私の学生時代のテーマは、クロロアレンとジチオール類とのラジカル付加縮合というものだったが、実験条件が悪いと、こんなたった2つの基質の反応であっても、実に多種多様な生成物ができてくる。化学者の苦労は、じつにこの多種多様を1種1様にすることにあるといってもよいくらいなのである。低分子のものも、高分子のものも、環状のものも、線状のものも、分岐したものも・・と、いろいろできる反応は、純度が問題になる工学ではお呼びではない。
 しかし、生命の起源を考える研究者にとっては、化学反応の多様性は実に重要な問題なのである。低温から高温、低圧から高圧まである地球の条件では、歴史が示す通り、化学物質の多様性は明らかに増加してきた。有機物や無機物が基質として、あるいは触媒として働き、生成物もまた基質としても触媒としても働く系というのは、一体どんなものだろうか?反応の多様性が、物質の多様性をはるかに上回り、まさに爆発的に化学物質は増えていったことだろう。さらに複合体がもつ触媒としての可能性まで含めればどうなるだろう。新しい物性はどんな勢いで生み出されてきたのだろう。少し考えるだけでその凄さが伝わってくる。もちろん、熱水噴出口に生まれた物質が、ずっとそこにとどまっているわけではないだろうが、それでもこれは過大なイメージではないような気がする。
 DNAの誕生など不思議でもなんでもないのではないか?物質のもつ無限の可能性を考えれば、DNAが選ばれたのがむしろ偶然で、他にもたくさんの候補があったのではないか?宇宙のどこかでは、DNAとは異なる物質が基本物質として使われている、と考えたほうが理にかなっているのではないか?妄想は広がるばかりだ。
 学生当時は、化学にあまり興味がわかず、先生方に迷惑ばかりかけていた私だが、今になって化学の面白さを感じはじめている。



[鳥居信夫]
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