しっぽの生命誌❷
イヌがしっぽを元気に振る様子や、セキレイが長い尾を上げ下げするのを見ると、しっぽが心を表しているようで、私たちにもしっぽがあればとうらやましい気持ちになりませんか。おまけのようにも思えるしっぽですが、実は、生きものの多様な暮らしをとてもよく表しています。しっぽのある生きものをつくり、端っこに宿る知恵を身近に飾りましょう。
条鰭類(サカナ)の仲間トビハゼ
潮の引いた干潟で飛び跳ねたり、歩いたり、潮が満ちると穴に潜ってしまうトビハゼは、東京以南の日本各地の河口で汽水域の泥干潟に暮らしています。水の外では皮膚で呼吸するために体を濡らそうと転がる様子が見られます。目も頬袋に引っ込めて湿らせるようです。
陸を移動できる魚にはウナギやナマズがいますが、いずれも体をくねらせて進みます。一方トビハゼは、体は伸ばし、腕のような強い胸ビレを左右同時に動かして前進します。その様子は松葉杖歩き(crutching)と呼ばれています。移動や求愛のアピールをする時にはその名の通り飛び跳ねますが、ここで尻尾が活躍します。体全体を丸めるように縮め、尻尾を打ちつけた勢いで飛び上がるのです。木や岩によじ登るときにも、体を支える尻尾が役立つようです。
魚に一番近い陸上動物は両生類ですが、現存のカエルもイモリも主に後ろ足で進みます。ところが最初に陸上に進出した四肢動物の祖先の化石を見ると、胸ビレがより発達しており、「前肢駆動」だったと考えられています。魚にしてはたくましい骨をもつ胸ビレでのんびり干潟を進むトビハゼが、脊椎動物の上陸のヒントを教えてくれるかもしれません。
参考文献:
Science, Vol. 353(6295) pp 154–158 (2016)
Integr. Comp. Biol., Vol. 53(2) pp 283–294 (2013)
右は古生代に栄えた四肢動物の祖先2種。復元図では、しばしば胸ビレで体を支え、上半身を陸に乗り出している姿が描かれるが、トビハゼのように泥地を歩いたかもしれない。
参考文献:PNAS, Vol. 111(3) pp 893–899 (2014)