今号テーマ
微生物と共にあることを実感
人間がいのちある存在であることを忘れているような社会、体温を越す猛暑の連続など生きる基本を改めて考えなければならないと思います。美しいものを求め続ける韓国の造形作家、崔在銀さんが提案する、38度線を越えて朝鮮半島を一つにする空中庭園は、まさに生きるって何という基本を考えさせます。リサーチでは、生きものは体内にいる微生物たちのはたらきを含めての存在なのだということを実感します。木村さんの肥満研究は身につまされ、本郷さんの研究では、繁栄は他と違うシステムをつくることからもたらされると教えられます。サイエンティスト・ライブラリーの安元先生の海の毒の話も、微生物の多様さやしたたかさを教えてくれます。紙工作は擬態の真打ち登場、コノハムシです。葉の裏を真似るとは凝っていますね。
TALK
距離と尊重をもって自然に接する
微生物との関わり合いから「生きている」を考える
生きものの特性は「膜・複製・代謝・進化」と教科書にあり、私たちもそう考えてきました。しかし、細胞、ミトコンドリア、葉緑体、ウイルスのすべてがもつゲノムを切り口にすると、本質は「複製」と「進化」ではないかと思えてきました。ここから改めて「生きている」とはどういうことかを問うのが今年のテーマです。
CARD
つむぐ
20年前に生命誌研究館を始めたきっかけは、生命科学という学問を、生きているとはどういうことだろうという素朴な問いにつなげたいという思いでした。その具体的なとっかかりがゲノムでした。DNAを遺伝子としてだけでなく、細胞という生きる単位の中の総体(ゲノム)として捉えると、普遍性、多様性、歴史性、階層性、創発性などが見えてきたのです。それから20年、ゲノム解析は予想をはるかに越えて進展しました。今や個人のゲノム解析の時代ですが、ゲノムの本質がわかったかとなると・・・さまざまな現象が次々出てきて複雑です。少しわけがわからなくなってきている気もします。ゲノムに向き合い直し、生きものって何だろうと改めて問うのが次の10年です。織りものの始まりは糸を「紡ぐ」こと。ゆっくり紡いで原点からの出発です。