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TALK

化石が物語る人類の始まり

諏訪 元東京大学総合研究博物館教授
中村桂子JT生命誌研究館館長

1. 人類の起源にこだわる

中村

38億年の生命の歴史には、エポックメイキングな時がいくつかあります。まず生命の誕生、つまり原核細胞が現れ、その後は真核細胞の登場とその多細胞化です。分子生物学で考えるとこれらは大事件ですが、個体と環境との関わりの面白さは陸上進出にあると気づいたものですから。ここ数年「生きもの上陸大作戦」というテーマで、植物、昆虫、脊椎動物の上陸の様子や、地球環境の変化と密接に結びついた生きものの生存戦略を探り、その全体像を絵巻物語として表現しました。昆虫など節足動物の分子系統樹と個体発生の比較研究とで描いた昆虫進化の道筋が一致するという興味深いデータも出ました。

諏訪

DNAの系統解析と比較発生学とが重なるとは魅力的ですね。

中村

ええ。陸上進出がなかなか面白かったものですから、次は人類誕生を考えたいと思い始めたところです。今日は諏訪さんに、フィールド調査にかける思いとそこから見えてきた人類の歴史を語っていただき、イメージを作りたいと思っています。

諏訪

私は、あまり思いは膨らませずに淡々と追究して、実際のところ何がいえるのかをコツコツ積み上げていくタイプなので、ちょっと難しいお題ですね。

中村

学問とはそういうもので何か大きなことを言ってみても仕方がありませんけれど、最近、諏訪さんのお仕事で新事実を示す骨の化石がいろいろ出ましたでしょう。実物が語る歴史を是非お聞かせください。

諏訪

一片の骨の化石から何を語れるか、その広がりは、現場の経験を重ねてこそ生まれてくるものです。この道へ入ってまずは論文を読み、読んでいれば自ずと疑問が湧いてきます。そこで、ある事実をどのように解釈するのかをめぐって自分なりに考えるには、現場で実体験を積む必要があります。僕は、大学院生としてカリフォルニア大学バークレー校に留学した8年の間に、ティム・ホワイト(註1)さんの仕事を手伝いながら断片的な化石のみかたの基礎を身につけました。研究室で標本を一つ一つ見て頭に叩き込み、フィールドへ出て調査するということをくり返していくうちに眼が変わった気がします。

中村

どこで何を探すのか、見当もつかないのですが。小さな歯を見つけるまでの様子を教えてください。

諏訪

まず人類の出自を知りたい、しかも実際のところを少しでも知りたいという意気込みです。そして出会った破片一つ一つが何であるかを納得できるまで徹底的にこだわって追求するのです。僕は、極めてこだわりの強い者が集まった国際チームで仕事を続けてもう20年以上になります。

中村

こだわりは、フィールドで化石をたくさん見ることにつながるのでしょうか。

諏訪

多くの時間をフィールドワークにつぎ込みます。自然の侵食などで、調べたい年代の地層が露出しているところへ行くのです。例えば、400万から600万年ほど前の地層だという情報があっても、そこに化石があるかないかは調べてみなければわかりません。溶岩が多過ぎるので化石はないだろうと思われていた場所でも、隈なく見て歩くと堆積物があるんです。

中村

どうしても知りたいという気持ちが、ないかもしれない所でも見ようとさせるのですね。

諏訪

眼に止まる骨のほとんどは同定できないものばかり、同定できても人類祖先でないものが断然多い。延々と調査を続けていると、だんだん疲れてくるし、集中力が落ちてくると破片も見えなくなる・・・。でも、ここに進化の証拠があるならば、一つでも特定したいという意気込みでがんばっていると、ある日、出るんです。気持ちいいですよ。

中村

やはりセンスの善し悪しがありますか。

諏訪

大事なことは三つあります。一つは、私は最近少し衰えてきましたが眼がいいこと。さらに現場の標本は、土をかぶっていたり、形が良い標本も大部分が埋まっていて少ししか露出していないので、パッと見て直感的に判断できないといけません。ですので、よい眼に加えて必要な二つ目は、現場で瞬時に形を見分ける力です。そして三つ目は、揺るぎない集中力の持続です。

本当に集中すると、探している化石の大きさで見えるものが違うんですよ。歯のかけらを意識して集中していると歯が見つかりますが、顎を探したいと集中していると歯を見逃します。ゾウの頭骨があるのに、歯を見つけようと集中して歩いていると・・・。

中村

通り過ぎちゃう(笑)。

諏訪

ええ。最初は、広く歩き回って全体の骨の散らばり方を見て、その中から重点的に見たい場所を絞り込んでいくわけです。ラミダス発見の時は、10キロ以上にわたるフィールド全体に化石がどのように分布しているかを把握するために、数人のグループで隈なく見て歩きました。

中村

最初は歯を見つけられたのですね。

諏訪

ええ。最初に発見したのは臼歯です。側面に石がこびりついて、下を向いて砂利の中に埋まって一部だけが露出していた。その瞬間、「お、これは面白そうだ」と。

中村

まさに直感ですね。

諏訪

全部は見て回れないので、パッと見て選別する。拾って、これこそ求めていたものだと。希にそういう瞬間があるのです。

中村

歯一本から、新たな人類の種が見つかるなんてドラマですね。

諏訪

普段は、一つ見つけても、次は見つからないことのほうが多い。しかも、この第三大臼歯はいちばん個体差の大きい歯で、種の同定にはあまり役立たないんですよ。だから、「よりによって第三大臼歯か」と、ちょっとがっかりしました(笑)。  ところがこの時は、すぐそばに切歯があった。さらに犬歯や、乳歯がついた子供の顎の骨など、全部で17標本が見つかり、種の発表まで行ったのです。最初は、人類化石じゃなくて食肉類の切歯もまざり込んでましたが・・・。

ラミダス発見の論文を掲載した『ネイチャー』の表紙を飾った「乳歯がついた子供の顎の骨」。

中村

それがパッとわかる訓練を積むんですね。

諏訪

今回の新種を命名するポイントになったのは乳臼歯と犬歯です。乳臼歯は、チンパンジーとアウストラロピテクスとで明らかに違います。チンパンジーでは、前の乳臼歯は切断型で乳犬歯とかみ合うので細くなっています。アウストラロピテクスの乳臼歯はもっと幅が広い。この時見つかった乳臼歯は驚いたことにチンパンジーとほとんど変わらない。一方、永久歯の犬歯の特徴は、アウストラロピテクスよりもごついものの、横から見るとひし形で、形は人類的です(図1)。チンパンジーのように尖った牙にはなっていない。ですので、犬歯をみれば古い時代の人類とわかるのですが、そうとう原始的、今までの常識からは語れないものだった…。その時点で、もしも、全身レベルで骨の化石が見つかれば、かなり面白いことが語れるだろうという期待が出たんです。

(図1) 犬歯の比較

左から、チンパンジーの雄、チンパンジーの雌、カダバ猿人(600万年前)、ラミダス猿人(440万年前)、右側の2つはともにアウストラロピテクス(350万年前前後)。

中村

人類の源を知りたいという意気込みが新発見の原動力になり、それが具体化していくプロセスが眼に見えるようでドキドキしました。

諏訪

ヒトとチンパンジーとが共通祖先から分かれて、どのような過程を経たかを少しでも明らかにしたいという思いは、アウストラロピテクス属、つまり約400万から100万年ほど前の化石を探る研究者に共通しています。  ラミダス発見の時には、400万年以前の化石はほとんど知られていませんでした。古いのはうれしいんですよ。

中村

始原に近づくわけですからね。お気持ちよくわかります。

註1:ティム・ホワイト【Tim D. White】

(1950- ) 古人類学者。カリフォルニア大学教授。

2. アルディたちの暮らした風景

諏訪

私たちが、歯を手掛かりにラミダスを論文発表したのは、発見から2年後の94年の9月でした。偶然にも、その直後の冬、私は、その現地調査に参加しなかったのですが、ラミダス全身骨の一部が発見されたのです。アウストラロピテクスより古い人類祖先の姿を語りたいという期待が現実のものとなった。非常に感動的でしたね。発見グループのリーダーであるティム・ホワイトとブルハニ・アスフォーらの手で、数年かけて慎重に発掘されました。ご覧いただいているようにとても状態のよい個体標本です。アルディピテクス・ラミダスの属名から、「アルディ」と呼んでいます。 東大総合研究博物館で公開された"アルディ"の全身化石骨(レプリカ)。

東大総合研究博物館で公開された"アルディ"の全身化石骨(レプリカ)。

中村

お話を伺っているだけでもわくわくします。全身骨は、最初発見なさった歯の近くで見つかったのですか。

諏訪

1、2キロ離れていましたが、同じ年代の地層が10キロ以上断続的につながった一帯で、実はそこは化石のあまり出ない場所なのです。74年に発表されたルーシー(註2)は、サバンナの動物化石がたくさん出る地層で発見されました。ラミダスの発見地は、おそらく森林とサバンナがモザイク状になった一帯だろうと考えられます。

中村

とても興味深い場所ですね。森林は化石が残りにくいのではありませんか。

諏訪

ええ。数は少ないのですが、アルディのようなラミダスの骨と一緒に、森林性のサルや、木が茂っている環境に生息するレイヨウ類の骨、さらに花粉や種子などの化石が見つかっています。ルーシーなどアウストラロピテクスの発見地では、同じレイヨウ類でもヌーのような乾いた草原に生息するものや、川辺の湿性の草原を好むウォーターバックの仲間の骨が多く出ます。

中村

一緒に出た他の化石も大事なのですね。そこから暮らしの様子まで思い描けるような気がします。ラミダスは、骨の形も暮らしていた場所も、共に中間的ですね。私たちは、祖先的な類人猿の時代からずっとアフリカの森で暮らし続けているのがチンパンジーで、あるとき共通祖先から分かれてアフリカ東部の乾燥した平原に出て適応したのが人類だという、いわゆる「イーストサイド物語(註3)」という説をずっと聞かされてきました。しかし、アルディたちは森林と草原をまたがって暮らしていた。

諏訪

「イーストサイド物語」は、実は、最初からあまり科学的根拠がなかった「おはなし」仮説なのですが、いずれにしましても、人類祖先は、一気に森林から草原へ移ったわけではない。直立二足歩行にかなり適応したアウストラロピテクスの前に、ラミダスのような初期の猿人の段階があったということには非常に大きな意味があるのです。ラミダスが生息の中心としていたのは、今でもチンパンジーがギリギリ出てくるような森に隣接したウッドランド環境だろうと考えられます。その後アウストラロピテクスになると、森を利用しながらも生息の中心はもっと開けたサバンナをも含むようになった。イーストサイド物語のようにいきなり乾燥した平野に出たわけではなく、時間をかけて段階的に移行したのです。

中村

生きものの身体の特徴と生息する環境の特徴は、表裏一体ですが、どちらを見ても中間的な標本が見つかったことで、人類の進化の過程が新たに一つ見えてきましたね。

諏訪

地層の火山岩の年代を測定したら、440万年前ですから、それまで発見されていたものからそれほど時代を遡るわけではありませんが、骨の化石に見られる形態の特徴は、人類の初源的な姿と言ってよいと思います。

中村

ヒトとチンパンジーの分岐が600万年前とすると、440万年前のラミダスより、もう一段階古い猿人がいた可能性もありますか。

諏訪

その可能性はありますね。特に、分岐はもう少し古い可能性がたかいので…。しかし、ラミダスは足の親指が大きく開いているというかなり類人猿に近い特徴を持っているので、これ以上類人猿に近づくと・・・。

中村

もう区別がつかないかもしれない。するとギリギリ人類の特徴を出しているのがラミダス。

諏訪

ええ。ただ600万年前頃の地層から、歯や頭などの標本が少し出ていて、頭はラミダスとよく似ています。しかし、全身レベルで同じだったのかどうかまではわかりません。アウストラロピテクス属にいくつか種があるように、アルディピテクス属にも異時的にラミダスとは違った種がいたという可能性が当然あり得ます。

中村

なるほど。そこも化石で語られるという期待が持てますね。

註2:ルーシー

1974年、ハダール遺跡(エチオピア)の約320万年前の地層から発掘されたアウストラロピテクス・アファレンシスの部分骨格標本の愛称。大人の女性と考えられている。
 

註3:イーストサイド物語

乾燥化が進んだアフリカの大地溝帯の東側で人類は誕生したという仮説シナリオ。フランスの人類学者イブ・コパンスが唱えた。

3. ヒトとチンパンジーは似ていない

諏訪

数年前、1000万年前の地層からゴリラの祖先と思われる標本を発見しました。ただしこれが歯だけなので、人々は納得してくれないのですが。形態進化は分子進化の後に表れるとするならば、ゴリラの系統は、実際は1200万年くらい前にすでに分岐していたはずだと僕らは主張しています。ですが、今のところ、分子系統樹で推定したらせいぜい800万年前程度なので、ゴリラの説は全く受け入れられていませんけれど(笑)。しかし、ラミダスの研究からも、実際の類人猿の分岐年代は現在の分子による推定値よりも全体として古くなるのです。

中村

それはとても興味がありますね。どうしてそう言えるのですか。

諏訪

そもそも600万年前という分子で推定したヒトとチンパンジーの分岐年代は、最初のオランウータンが古くても1600万年前、旧世界ザルが2500万年前という化石を根拠とする年代を当てはめて算出されたもので、実際にはもっと古い分岐だった可能性は常にあるわけです。  もう一つ、オランウータン、ゴリラ、チンパンジーなどの類人猿に見られるぶら下がり型(ブラキエーター)の構造的特徴は、これまで我々ヒトを含む共通祖先から受け継いだものとみなされてきましたが、ラミダスはこの特徴が少ないのです。つまり、現在の類人猿は共通祖先から分かれた後に、平行進化でそれぞれ独自にぶら下がり型の形質を獲得したとも考えられるわけです。この考えのほうが全体的に整合性があるという論文をこれからきちんと書いていかなくてはいけないと思っているんです。

中村

私たちは、チンパンジーのナックル歩行(註4)を見て、人類の祖先が立ち上がる前の姿を見ているように思いがちですが、実際には、チンパンジーへの道も、人類への道も、それぞれにコツコツ積み上げた固有の歴史があるということを、諏訪さんたちのラミダスのお仕事が明確に示して下さいました。この発見の意味はとても大きいですね。

諏訪

今、中村先生がおっしゃった問題は、比較解剖だけでなく、生態や行動の比較などいろいろな分野から議論ができて大変面白いところなのです。

我々ヒトは、大きく伸びをするときに手首を背屈できます。ニホンザルもできますが、チンパンジーにはできません。ぶら下がり型に適応すると手から腕にかけての内側の筋や腱が短くなり、全体的に屈曲型の筋骨格構造になってくるのです。

中村

疲れた時、伸びをすると気持ちいいんですけどね。

諏訪

ヒトとチンパンジーとでは、手足の細かい骨や、関節や、靭帯などもかなり構造が違います。けれども漠然と「似ている」という情報が多いので、それに押され気味で、違うという主張は少数派に追いやられてきたのが現状です。

少数派の大きなよりどころとなっていたのは、Straus(註5)という比較解剖学者が、「これこそ人類の起源のなぞ」という強い主張を込めて出した、"The Riddle of Man's Ancestry"という題の有名な論文です。50年以上前の仕事ですが、彼はこの論文で、「多くの人は、ブラキエーターから人類が出たと思っているけれど、実は、もっと普通の四足のサルから分かれた可能性を示す証拠があるんですよ」と書いています。この考えは形態進化の研究者の間ではよく知られています。ラミダスの発見は、Strausの主張を強く支持するものです。

現在、我々が眼にする類人猿は、昔の姿を留めているのではないのに、我々は、ややもすれば、人類の祖先を想像するときに現在の類人猿の姿を投影してしまう。実際は違っていたのです。

中村

チンパンジーとヒトとが違う道を歩み初めてから過ぎた数百万年という時間を思えば、私たちヒトが変わったように、彼らは彼らで深い森で暮らしやすいように適応していて不思議ありませんね。それぞれが環境に応じて変化する充分な時間があったわけです。

諏訪

ラミダスの全身骨の標本もまだ発表したばかりで、今はまだ過渡期です。まずはいろんな立場の研究者に現物を見ていただかないことには始まりません。新しい考えが世に受け入れられるには多くの時間が必要です。

中村

現物を見て考えようというのは説得力があります。

諏訪

ルーシーの場合も、80年頃に論文発表された新説が教科書レベルに浸透するまでに10年以上かかりましたから。

註4:ナックル歩行

腕の中節骨の背を地面につけて歩く現生のアフリカ類人猿に特徴的な歩き方。
 

註5:ウィリアム・ストラウス【William L. Straus】

(1900 - 1981) 米国の動物学者、比較解剖学者。霊長類の足の構造から、ヒトと類人猿とは四足動物から別々に進化した子孫であるという説を最初に主張した。

4. 生きものの中のヒトの特徴

中村

現在、ヒトの仲間は1種しかいませんでしょ。ヒトも過去には多様な種が出たけれど、今は1種しかいない。これはなぜでしょう。

諏訪

広いニッチを持つ種系統か、狭いニッチの種系統かを比べると、種ごとにニッチが限定されるほうが系統全体は多様になりますね。

大型類人猿は、生態的な特徴づけが難しいのですが、化石で知り得る限り、ラミダスよりも、チンパンジーのほうがニッチは広かった可能性すらあります。ですが、その後アウストラロピテクスを経て、さらにホモ属やいわゆる原人になると石器を使い始めた。

中村

やはり道具を使うということは大きかった。

諏訪

人類は、ホモ属になってからニッチをどんどん開拓しました。その分、種の多様性が生じにくくなったはずです。アウストラロピテクスもそれほど多様化していたわけではありませんが、頑丈型とそうでない猿人の二系統には分化していましたし、種か亜種かぎりぎりのレベルの地域差も生じていました。それ以前のラミダスは、アウストラロピテクスよりもニッチは狭く、地域的に種が分化しやすい傾向がやや強かったかもしれません。

中村

ニッチが広いほど種分化しにくいことはわかります。確かにヒトほど広がる種は他にいませんね。アフリカで生まれ、今では世界中に広がってしまったという人類のこの特徴は。

諏訪

人類の「出アフリカ」は石器文化を持ったホモ属になってからです。それも、文化の段階ごとに何波かありましたね。ヒトという生物の環境への適応は文化を含めて起こるということでしょう。ふつう生物種が違えば環境利用の仕方が違うので、亜種や近縁種も交配せずに隔離されるだろうと思われますが、人類は文化ごとに環境利用の仕方が違っても、あらゆる環境に適応して一様に分布します。

中村

やはり文化を持ったことなのですね。

諏訪

チンパンジーも萌芽的な文化を持っていると言われますが、人類とはその度合いが違う。

中村

チンパンジーは道具を使うけれど、道具を作るための道具は作らないと言われますね。

諏訪

石をかち割って打製石器という鋭利な刃物を作ったのは、人類だけのようですね。その後、刃物を打ちかくハンマーと、その産物の刃物だけの時代がおよそ100万年近く続きました。その間に脳がどんどん大きくなる方向へ進化したことは、石器の作製と使用が、人類のいろいろな行動に相当な変化をもたらした証だろうと思いますね。

中村

道具と脳の進化を考えていくとやっぱりヒトという生きものは、生物学として考えた時変なやつだなあと思いますね。

諏訪

どうしてそんなに変になったのかをみんなで考えていきたいですね。僕らは、歴史的事実として化石を一つ一つテーブルに乗せながら、いつの時代にどのような形態の変化があったのか、人類の初期の段階を垣間見たいという思いでやっています。

中村

脳の進化という問題で、今の諏訪さんのお仕事で化石から見えてくることってありますか。

諏訪

頭骨の内側を測って脳の大きさを推定するくらいで、化石だけではそれ以上のことを言うのは難しいところがありますね。とくにラミダスはまだ脳の内腔の形もわかっていません。おおまかに言えば、アウストラロピテクスに比べてちょっと小さいが、形は似ている。

中村

形はあまり変わりませんか。

諏訪

アウストラロピテクスでは頭頂葉が後にのびている分だけ、後頭葉が下側についています。チンパンジーとアウストラロピテクスとでは、脳の構造が違うだろうと言われていて、ラミダスの脳はおそらくアウストラロピテクスと同じタイプだろうと思われます。その構造にどんな機能があるのかと聞かれても、今は何も言えないのでこの問題には深入りしていませんが。将来的に、脳の発生のメカニズムがゲノムレベルでわかる日が来れば、人間の脳の構造的な配分と比較して何か語れるようになるんじゃないかという期待はあります。

中村

脳は大きさよりも構造のほうが大事ですね。人間の大きな特徴は、前頭葉という領域にあるわけですから。

諏訪

アウストラロピテクスでも頭頂葉辺りが統合を司る領域だろうと言われていますので、類人猿やラミダスと比較することができて、それらが認知システムの発達にどれだけ貢献しているかというような議論ができれば面白くなりますね。今はまだまったくのお話ですが。

中村

その段階で類人猿と違う能力を持っていたことが事実としてわかってくるのは楽しみですね。

諏訪

お互いの心理状況を読み取ったり、共感したり、ホモ属になってから開花したような能力でも、その初源的な芽をすでに持っていたかもしれません。唯一、化石からいえるのは大きさと、非常におおまかな構造のみですが、そこから面白い提案ができるかもしれないですね。

5. 人間らしさのさまざまな段階

中村

ラミダスは足の形がとても印象的ですね。

諏訪

親指が大きく開くという足の作りは即ち偏平足ということで、歩くには不利な構造です。我々が歩いたり走ったりするときには、足底のアーチ構造で着地の衝撃を吸収できるし、地面を蹴り出すバネにもなる。ラミダスの足の形だけ見て、「こんな足でほんとに歩けたんですか」と疑う声もありますが、ラミダスは、すでに骨盤が二足歩行しやすい形態に部分的に変わっているのです。両方が必要だったとういうことで、そこから端的に思いつくことは、樹上で寝泊まりしていた。

中村

まだ森の生活があったということですね。

諏訪

それで、木登りに有利なあの足の形を維持する必要があったのでしょう。暮らしていた場所も、寝るための「ネスト」(巣)を木の上に作るのに十分な、葉の茂った木々がある程度存在する環境で、そのねぐらを中心に採食行動の遊動範囲も決まっていたのでしょう。そういう人類の段階があったのです。逆に、ルーシーのように足底がアーチ構造をしているのは、もう木の上で寝ていなかったことを示しているわけです。

化石の構造の議論に終始せず、骨の形が意味するところを総合的に見れば、彼らの生活が根本的に変わったことが浮かび上がる。それをいかに読み解くかが大切なのです。

中村

それにしても木を離れて地面に降りるなんて、ずいぶん危ないことだったんじゃないですか。

諏訪

危険が迫れば避難すればいい。私もサバンナで調査していてライオンが来たら木に登りますから(笑)。

中村

実体験からの話は強い(笑)。

諏訪

でもまじめな話、おそらく木登りに依存しないですむ何らかの防衛能力をすでに持っていたでしょうね。以後はお話になってしまいますが、枝を振り回したり、集団で協力したり、その辺は証拠がないと議論にならないのでなかなか言えませんが、考えていきたいところです。

化石から進化を探ると、"人間らしさ"が段階的に出てくるところが面白いのです。犬歯が小さく、直立二足歩行していたラミダスの特徴から考えられる我々の仮説は、運搬行動が発達して食物をお互いに分け合い、1頭の雄と1頭の雌が恒常的におつきあいするようになっていたのではないかというものです。

中村

両手を使ってパートナーに食べ物を運んであげるわけですね。

諏訪

ええ。ペア型の繁殖ならば、運搬行動が繁殖率を左右し、子供の生存率に大きく影響しますので、進化的に選抜されていく性質です。逆に、チンパンジーのように雄の犬歯が大きい種系統では、より攻撃的で序列的な繁殖戦略のほうに選択がかかる。

中村

ラミダスはチンパンジーほど攻撃的ではなかったということですか。

諏訪

僕らはそう考えています。チンパンジーの場合は、熟れた果実にこだわって、テリトリーを守ろうとします。そのためにチンパンジー社会の雄同士は群れ間で対立して争います。さらに、血縁関係も多い群れの中でも発情している雌をめぐる競争が激しく、犬歯が二次的に大きくなったと思われます。

中村

歯一つから語れることってずいぶんあるんですね。

諏訪

かろうじて語れると言うべきかもしれません。犬歯をノギスで測って大きさの序列に並べ、CTスキャンしてエナメル質の厚さを測って、さらにその内側の象牙質の構造だけを取り出して3DCGでシミュレーションして見たりというような作業を延々と重ねて考えていきますので、一つのことを言うにもかなりの時間がかかります。

中村

歯にこだわっていらっしゃるんですね。

諏訪

歯の化石が一番よく見つかるからです。そして現物でしか語れませんからね。ラミダスの犬歯を、チンパンジーやゴリラなどの犬歯と比較して言えることは、おそらく共通祖先はある程度の攻撃性を持った普通の霊長類だったと思われます。ラミダスは、そこから、少なくとも表面的な攻撃性は弱まったと考えてよいでしょう。

ラミダスが、一夫一婦的だったかもしれないという発想の裏には、共同研究チームのラブジョイ(註6)氏が昔から持っている仮説がありまして。彼は、広く哺乳類を見ると、一夫一婦的なつながりを重視する種では、雄の関与がないと子育てできないような環境にいることを出発点としていると捉えています。そのような種が哺乳類の中で占める割合はだいたい5%だそうです。齧歯類で、非常に近縁な一夫多婦の系統と一夫一婦の系統があり、DNAを比べると、一夫一婦的な行動に関わると思われる脳内伝達物質レセプターの遺伝子に違いがあるらしいんです。ですから、必要あらば、一夫一婦的な行動へと進化するわけです。

果たしてこれと同じようなことが、マーモセットのような一夫一婦的な霊長類で見られるか、あるいはヒトとチンパンジーでそうした配列がどう違うのかを調べると面白いでしょう。さらにもうちょっと頑張って、その遺伝子がいつ分岐したかまでわかると、ラミダスの頃にはどうだったかという議論もできるのですが。

註6:ラブジョイ【C. Owen Lovejoy】

(1943- ) 人類学者。ケント州立大学教授。

6. 日本人はどこから来たのか

中村

人類に関して、もう一つ、日本人はどこから来たのかという物語に関心を持ちます。諏訪さんは日本人の歴史に関わるお仕事もなさっていますね。DNAの比較研究もありますが、今、化石からは、どんなことが言えるのでしょうか。

諏訪

日本は気候と土壌の関係で残念ながらあまり古い骨が出ないのですが。それでも石灰岩がある沖縄県や静岡県などで少しずつ出ています。僕の研究室の卒業生で、今、一生懸命研究しているのが何人もいます。この間も石垣島で2万年ほど前の骨が出ました。

中村

2万年前というのはとっても古い・・・。

諏訪

これまでに出たいちばん古いもので3万年前の骨が沖縄から。鈴木尚(註7)先生時代の渡邊直經先生の調査で発見された子供の大腿骨と脛骨で、「山下町人(註8)」と呼ばれています。その次にまとまって出たものは「港川人(註9)」。ほかにも少しありますが、2万年前後の骨もあまり多くはないので、一つでも多い方がいい。今、沖縄県立博物館と共同で少しずつ2万~4万年前の人骨を探しています。私は旗振り役だけですが、成果が上がることを期待しています。

化石の豊富なヨーロッパでは、20万から15万年前ぐらいの間にアフリカで出たサピエンスが拡散して、3万年前頃までに分布を広げたという説が定着しています。それ以前のヨーロッパは、旧人ネアンデルタール人の化石が多く、彼らはサピエンスとほとんど交雑せずに絶滅してしまっただろうと言われていますが、今も論争は続いています。

一方アジアでは、最初のサピエンス登場がわかっていません。もし、日本で4万年ぐらい前の化石が出れば、それはアジア全体でのサピエンスの進化拡散のシナリオにも影響を与える重要な発見になるでしょう。今日も『ネイチャー』でデニソワ人の追加報告がありました。ネアンデルタール以上に古いタイプの人類がサピエンスと交雑していたのではないかという内容ですが、能力的にはおそらく交雑は可能だっただろうと思います。でも実際にどれだけ交雑したかどうかは、ふたを開けてみなければわかりません。アジア周辺でいろいろなデータが出てくるようになれば、アフリカ起源説では説明できないようなことも出てくるかもしれません。ですから人類学全体から見て、是非、日本で積み上げ型の成果をしっかり出していきたいと思います。

中村

最近はそういう意気込みでお仕事をなさる若い方も出てきているのですね。

諏訪

ただ現実には、三内丸山のような行政主導の緊急発掘は大がかりにやってその分成果も大きく出ますが、学術発掘はこじんまりコツコツ続けるしかないので成果がパッと出ない。すると研究費を維持できないというケースも出てくるわけです。

中村

でも、諏訪さんのラミダスの成果があれば説得力は出てくるでしょう。「保証なんてなくてもコツコツ積み上げていったら成果は出る、沖縄だって同じです。」という説得の材料は持ってらっしゃるわけですから強いと思いますよ。

諏訪

そう言っていただけると、もっとがんばらないといけませんね。

中村

「はやぶさ」のような宇宙探査と、「アルディ」のような人類祖先の探索は、みんなの気持ちをわくわくさせるテーマですね。知りたいという気持ちがみんなにあるのでしょう。体内ではたらく分子が一つ見つかりましたというのとは違う関心がありますね。

註7:鈴木尚【すずき・ひさし】

(1912 - 2004) 人類学者。古人骨研究により縄文時代から歴史時代を通じての日本人の形質的変化を探る。1998年紫綬褒章。
 

註8:山下町人

1968年、沖縄県那覇市の山下町第一洞穴で発見された国内最古(約3万7千年前)の新人骨。


註9:港川人

1970年、沖縄県具志頭村港川石灰岩採石場で発見された新人骨。1万7千~8千年前のもの

7. 物語を編む

中村

ラミダスは木の上で寝ていたって思うとなるほどと思うなど、今日は私たちの祖先が身近になりました。私は人類学の専門家じゃないから、勝手にイメージを描いても許されますでしょ。

諏訪

うらやましいですね。

中村

今日のお話で、人類の物語が浮かび上がってました。

諏訪

僕らのような化石の専門家は、「ラミダスは木の上で寝ていました」という発想が正しいとを主張するには・・・。

中村

たくさん化石を見つけて証明しなくてはならない。専門家として抑制的になる気持ちはよくわかります。

諏訪

しかし、専門家の枠内にとどまっていても面白さが伝わらない。その辺でいつも悩むことになるのです。原則としては、化石を研究している当事者が言えないことまで言い過ぎるのはよろしくないと思います。そこで多面的な人類進化の研究者が集まって、統合して一つの物語を作るとよいでしょうね。

中村

今日、諏訪さんのお話を聞きながら、ずいぶん材料は豊富になったと感じましたが、人類誕生の物語を作るうえで参考になるお仕事として、今どんな分野に関心をお持ちですか。

諏訪

例えば、脳科学と認知科学との連携が始まっています。認知科学は、そもそも霊長類生態学との関わりはあったのですが。最近は、僕らのような化石の研究とも重なる領域が出ています。ラミダスのイメージを作るうえでは、霊長研の古市剛史(註10)さんらに伺ったボノボの行動や生態についてのお仕事が大変参考になっています。ボノボはチンパンジーと比べて攻撃性が低いのです。

脳科学に関しては、今はまだ具体的ではありませんが、さきほどお話したように、現存種が持つ脳の構造的な特徴と発生のしくみがDNAで語れるようになれば、化石から見える脳の特徴に結びつけて議論できるようになるかもしれませんね。人間の進化というテーマは、ある意味で誰でも物語を作れてしまうところがあります。みんな自分のことなので、けっこう好きで詳しいですから。研究者も、うっかり安易な物語を作ってしまうこともある。しかし、歴史的背景なども本当によく考えて発言しないと、意図せずして社会にそぐわないメッセージを伴ったりもします。  

けれども今後の学問の広がりとしても、まず化石を実在証拠として、おおまかな物語の骨格を示せれば、その肉付けはいろいろな分野の知識を集めた総合科学として作っていけるかもしれませんね。

中村

慌てることはないと思います。おっしゃる通り、へんてこなストーリーを作ったらマイナスにしかなりませんから、そこは本当に気をつけなくてはいけませんね。

諏訪

人間は戦争をする。それは、チンパンジーの群れ同士に見られるような攻撃的な性質を共通祖先から受け継いでいるんだという説もありますね、僕らはそうじゃないと思っています。

中村

それは、チンパンジーと人類との関係を非常に単純に捉えているからで、危険ですね。今日お話を伺ったような一つ一つを積み上げ、謙虚な気持ちで物語を組み上げていかなければ。時代が求める期待に合わせた科学の物語ほど怖いものはありません。科学って、社会にとっては方便として使える面が大きいですから。とくに人間については、ダーウィンの進化論以来、怖い歴史は山ほどありますもの。

諏訪

今日、博物館の展示でラミダスの全身骨をご覧いただきました。僕も展示を企画する時には、変にストーリーを作ってしまわずに、ラミダス研究などの成果に至る過程も含めてそのまま見てもらいたいのです。東大総合研究博物館の蓄積を、先人たちの辿った学問の歴史としてそのまま見て感じてもらおうという姿勢でやっています。それが、よそでは真似できないクオリティにもなると思っています。一般の方が見ると、ちょっと専門的すぎるという意見もありますが、僕自身は、今の展示がとても気に入っています。

中村

とても考えさせられますし、面白く拝見しました。

諏訪

以前、国際共同研究の関係で、エチオピアの国立博物館で重要標本のA to Zという主旨で展示を共同制作したことがありますが、その時も、展示の作り方は同じです。僕の発想だといつもそうなっちゃう。

中村

今おっしゃったことは科学と社会との関係の基本だと思います。自分たちの仕事を正確に、気持ちを込めて示すことが大事で、今日拝見した展示はそうなっていました。

諏訪

展示として何か物語を作る場合も、やはり化石で言えるのはここまでですと、そこは頑固な姿勢を崩さずに示して、さらに展開して、こんな風に思いを馳せることができますよという広がりの部分は総合科学としてコラボレーションしたいですね。

中村

ここの蓄積は素晴らしいですね。東京大学は日本の学問の殿堂ですから。無造作に置いた箱の中に本物がある。本物の強みです。ラミダスの復原模型はお作りにならないんですか。

諏訪

骨盤のところは研究の経緯で作ってありますが、想像で補っている部分も所々ありますので、3次元で全身の復原模型を作ろうとすると悩ましいですね。ルーシーのような骨格モデルなら、わからないところはわからないですよと、復原部分と補った部分を色分けして示せるでしょうが、今のところはやっていません。『サイエンス』の表紙を飾ったイラストは、力のある解剖画家と納得いくまでやり取りして、主要研究者数名で何度もチェックしながら仕上げた作品でそれなりの自信作です。

"ルーシー"の復元模型と記念撮影(諏訪教授の研究室にて)。

中村

ラミダスの成果を世に広めるという意味では、モデルが展示されるとインパクトが出ますね。

諏訪

そう思うのですが。注目される仕事であればあるほど、ふつうあまり問題にならない版権などの絡みも出てくるんです。

中村

だんだんそういう面が窮屈になりましたね。昔のように、「学問ならどうぞ」とは言わなくなってきて。

諏訪

3次元的なイメージができるのはとてもいいと思います。

中村

今日は、プロポーションのいい、ラミダスのかわいい "小顔"がとても印象に残りました。私たち人類の大元として、一生懸命生きている姿を思い浮かべながら手にとらせていただきました。ありがとうございました。

註10:古市剛史【ふるいち・たけし】

京都大学霊長類研究所教授。専門分野は、霊長類行動・生態学、人類進化学。

「アルディ」頭骨復原

発掘された全身化石骨標本"アルディ"の中でも、パンケーキ状に潰れていた頭部(左上)は実物復原が不可能とされていた。諏訪元教授は、この標本をCTスキャンし、コンピュータで破片を組み上げて復原してみせた(左下)。写真の右は完成した頭部標本と他種の頭部標本の比較(上段:"アルディ"、中段:チンパンジー。下段:アウストラロピテクス(左:華奢型、右:頑丈型))[ 東大総合研究博物館常設展示「キュラトリアル・グラフィティ 学術標本の表現」の中のラミダスの臨時特別展示より ]

人類史を編む

中村桂子

小さな歯の化石発見が人類誕生の解明につながるかもしれないとわかった時、どんなにワクワクなさっただろう。諏訪さんのお仕事を見て思っていました。炎天下、見つかる保証があるわけではない化石を、それまでの体験と見通しによる信念の下に探す作業。発見物を徹底的に解析し、そこから語れることを慎重に組み立てていく過程。お話から、抑制をきかせつつ、常に大きなところを見ている研究への姿勢が浮かび上がり、とても魅力的でした。ラミダスはなんとも可愛らしく、思わずあなたがいて私がいるのね、お眼にかかれて幸せですとつぶやきました。

諏訪 元

中村先生とは何年か前に一度お会いしたことがあり、そのときは大学博物館のありかたについてご指導いただきました。そうしたこともあり、私のほうは今回、若干緊張していましたが、生命進化全般のみならず人類の進化についても豊富な知識のもとにリードくださり、楽しい時間を過ごすことができました。特に、ラミダスから読み取ろうとしている人類史について、私たちが抱いてきた意外性や驚きを、中村先生もまた感じられていたことを知り、大変感激しました。また、化石といったハードな証拠にこだわりつつも、より包括的な人類史ストーリーを編むといった永遠の課題を新たに意識する機会ともなりました。最後に、ラミダスの頭骨復原やルーシーの全身骨復元を大変気に入ってくださり、これも感激です。改めて立体表現のインパクトを噛み締めています。

諏訪 元 すわ・げん

1954年東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程修了。80年よりカリフォルニア大学バークレー校へ留学し、エチオピア国立博物館、ケニア国立博物館などで標本調査、東アフリカでのフィールドワークに従事。京都大学霊長類研究所助手、東京大学理学部助教授を経て、現在、東京大学総合研究博物館教授。ティム・ホワイト、ブルハニ・アスフォーらとの国際共同研究チームによるアフリカでの初期人類研究のほか、縄文人など日本の人骨研究も手がける。

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