1. トップ
  2. 催し
  3. 寄生蜂の宿主乗っ取り大作戦

生命誌レクチャー 寄生蜂の宿主乗っ取り大作戦

詳細

日時

2023/02/18(土) 13:30〜15:00

場所

【現地開催】 JT生命誌研究館 
【ライブ配信】 JT生命誌研究館 ホームページ

出演者

島田裕子(筑波大学生存ダイナミクス研究センター)

主催

JT生命誌研究館

参加方法

参加無料・申込み不要
【現地開催】直接会場へお越しください。
 ※館内の滞在人数に制限を設けることがあります。
【ライブ配信】当日このページでYouTubeライブ配信を行います。
 ※場内を撮影いたしますので、ご了承ください。

内容

YouTubeライブ配信

ご視聴ありがとうございました
開催報告と終了後インタビューはこちらでご覧ください

寄生蜂とは、他種昆虫(宿主)の体に卵を産み付けて宿主の体を食べて成長するハチ目の昆虫です。ほとんどの昆虫にそれに寄生する寄生蜂が存在し、昆虫類全種のうち約20%を占めると推定されていて、多種多様な生活環を持っていることが知られています。しかし、寄生蜂が、宿主の体をどのようにして乗っ取り成長していくのか、その分子的メカニズムはほとんど知られていません。本講演では、飼い殺し型寄生蜂ニホンアソバラコマユバチ(Asobara japonica)が宿主ショウジョウバエを乗っ取る仕組みとその鍵となる毒タンパク質の発見のお話をします。

ショウジョウバエの幼虫に産卵するニホンアソバラコマユバチ(Asobara japonica)


ニホンアソバラコマユバチの寄生の過程

開催記録

 

2月18日の生命誌レクチャー
「寄生蜂の宿主乗っ取り大作戦」


島田裕子さん(筑波大学生存ダイナミクス研究センター)をJT生命誌研究館にお迎えしてレクチャーをしていただきました。「寄生に対する悪いイメージを改善したい」と明るく訴えてレクチャーが始まりました。独自に撮影した、寄生蜂がショウジョウバエの幼虫に麻酔と卵を注入する瞬間の映像や寄生蜂がショウジョウバエの幼虫の中で成長する様子を外から見た映像が紹介されました。研究室で島田さんが扱っている寄生蜂はショウジョウバエを宿主として実験室で簡単に飼育し、繁殖させることができることから、すでにゲノム配列を決定し、その情報を活用して感染に関わる仕組みの分子研究を進めているというお話でした。今後の発展が非常に楽しみな研究です。
 
 

セミナー後、島田さんから研究の裏話や様々な体験、研究への思いを聞かせていただきました。
その一部を以下にインタビュー形式でご紹介します。

質問1) 今回のお話の研究で一番面白いのはどんなところですか


寄生蜂ニホンアソバラコマユバチの毒が、宿主の脳神経系ではなくて成虫原基にだけ作用する点です。蜂の毒が、どのような分子機構で、宿主幼虫内の組織を区別して作用できるのかを、今後調べていきたいと考えています。

質問2) 生きものの研究者を志したきっかけがあったら教えてください。


小学4年生の時に、友達に誘われて参加した和歌山県立自然博物館の夏休み自然教室で、昆虫採集と標本の作り方を習ったことです。その時に、小さな虫の1つ1つに名前があって、とても綺麗な形をしていることを初めて知りました。
そして、学芸員のおじさんたちが夢中になって朽木を割って虫を探しているのを見てとてもビックリしました。大人のおじさんたちが、すごく楽しそうに虫の話をするので、自分も、昆虫のことをもっと知りたいと思いました。

質問3) 研究活動で何か心がけていることはありますか?


私が、最初に実験を習った師匠(碓井さん)が、1つ1つの作業を楽しむことが大事だと教えてくれました。もしかすると、小田さんからのご指南だったのかもしれませんね。「研究」というと響きはカッコいいですが、実際には、ご存知の通り、1日中液体を混ぜる作業だとか、ひたすらパソコンの前で計算する作業だとか、地味な作業の連続です。
寄生蜂が成虫原基を殺すという現象は、元々は、私が実体顕微鏡下での解剖作業が好きで、自分が興味ある組織(脳神経系)以外の、様々な組織(成虫原基)を必ず全てを解剖していたからこそ、見つけることができました。もし自分が興味ある組織だけに着目していたとすれば、脳神経系のみを解剖していたと思うので、成虫原基の異常には気づけなかったと思います。
私は、最初は、成虫原基を見つけられなかったのは、解剖を失敗したからだと思いました。でも、この私が、大きな成虫原基を見落とすような失敗をするはずがないと思って、次の日も同じ実験をしました。私が興味の対象とする脳神経系は完璧に残っていたのにも関わらず、アホなプライドのせいで。同じ実験を繰り返したのです。その結果、寄生蜂感染によって、解剖の失敗ではなく、成虫原基の細胞死が誘導されていることを見つけることができました。
なので、本研究は、実験の結果は決して予断を持って見てはいけないこと、楽しむ余裕を持つことが必要なことの2つの心がけを、私に改めて教えてくれました。

質問4) 今後、どんな研究(どんな発見)をしたいですか?


寄生蜂研究に限らないのですが、私が知りたいことは、「生物の妙」を支える分子機構です。
地球上には、いろんな昆虫がいて、様々な環境条件に対してうまく生活様式を工夫して生きています。その工夫の部分を分子レベルで解明できればなと思ってます。
地球の様々な環境に対して工夫するメカニズムがわかれば、それは生物多様性を裏付ける分子機構の解明につながると信じています。

 

島田さんの最近の主な論文: researchmap (https://researchmap.jp/yukoshimada)

1) Takumi Kamiyama, Yuko Shimada-Niwa, Hiroyuki Tanaka, Minami Katayama, Takayoshi Kuwabara, Hitoha Mori, Akari Kunihisa, Takehiko Itoh, Atsushi Toyoda, Ryusuke Niwa (2022). Whole-genome sequencing analysis and protocol for RNA interference of the endoparasitoid wasp Asobara japonica. DNA research 29 (4)
https://doi.org/10.1093/dnares/dsac019

2) Eisuke Imura, Yuko Shimada-Niwa, Takashi Nishimura, Sebastian Hückesfeld, Philipp Schlegel, Yuya Ohhara, Shu Kondo, Hiromu Tanimoto, Albert Cardona, Michael J Pankratz, Ryusuke Niwa (2020) The Corazonin-PTTH Neuronal Axis Controls Systemic Body Growth by Regulating Basal Ecdysteroid Biosynthesis in Drosophila melanogaster. Current biology 30 (11) 2156-2165
https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.03.050

レクチャーについて

JT生命誌研究館の研究員をはじめとするさまざまな分野の研究者が、探究と発見の日々をお話します。
進行形の研究、そこで考えたこと、苦労話など研究を身近に感じる絶好の場です。
レクチャーを聞いた後には、会場も一体となって話の輪が広がります。入場無料です。