詳細
日時
2011/12/03(土) 13:00~16:00
場所
JT生命誌研究館 1階展示ホール
出演者
田村宏治(東北大学大学院生命科学研究科)、
内容
- セミナー「手足の形づくりに見る普遍と多様」
討論会「新たなモデル生物の開拓者たち」 - 日時
- 2011年12月3日(土)13:00~16:00
- 場所
- JT生命誌研究館 1階展示ホール
- 内容
- 生きもの研究の魅力や生命誌の展開を探る新しい試みとして、BRH公開セミナーを2011年12月3日開催しました。内容は二部構成で、第一部は、発生学研究を進化の理解へとむすびつけ、鳥類の恐竜起源説に残されていた問題を解決した東北大学の田村宏治先生の講演、第二部は、新たなモデル生物の開拓者達として、5名の気鋭の研究者がそれぞれ関心のある生命現象を解明するために選んだ独自の生きものをテーマに熱い討論を繰り広げました。
第一部:セミナー「手足の形づくりに見る普遍と多様」
講師:田村宏治(東北大学大学院生命科学研究科)
第一部は、中村桂子館長のごあいさつで始まり、生命誌の新しい試みとしてのセミナーの開催と新展示エルマー・バイオヒストリーの冒険を紹介しました。次に表現を通して生きものを考えるセクターの平川スタッフから、講演の田村先生の紹介と季刊生命誌71号での田村先生のリサーチの記事について報告がありました。
そしていよいよ、田村先生の講演「手足の形づくりに見る普遍と多様」です。私たちの5本指に対して鳥の手羽先でおなじみのニワトリの翼の先にある指が何指かとは考えたこともありませんが、これが鳥類の恐竜起源を証明する最後の決め手だったのです。まず、親指が2本あるように見えるコアラの手から始まり、一筋縄ではいかない指の形と名前の関係に興味が引きつけられます。それからトリの手羽先の3本指が何指かという疑問を、発生学の手法を用いて丁寧に解き明かしていきます。そして発生学のどの教科書にも書かれているトリの手の指は、2、3、4指という記述が、どう考えても1,2,3指になるという鮮やかな結論を導き出すのです(詳しくは季刊生命誌71号リサーチを参照ください)。オーガナイザーという同じ仕組みで誘導される指が、様々な数や形を見せるのはどうしてか。ペンギンの羽の指はどうして2本指なのか。田村先生の疑問はまだまだ続きます。
特別展示新たなモデル生物コーナーの紹介を行い、休憩時間に入りました。展示コーナーに登場した生きものは、7種類。イチジクコバチ、ナミアゲハ、ナミテントウ、オオヒメグモ、ワカレオタマボヤ、トラザメ、ソメワケササクレヤモリです。昆虫、クモ、ホヤは実物が展示され、研究者を囲んで、生きもの談義に花が咲きました。
1階フロアのもう一つの特別展示が、ニワトリ胚の顕微鏡コーナーです。田村先生の講演で実験に用いられたニワトリの胚や肢芽の実物を展示しました。田村先生が見た指になるかならないかの細胞の位置のズレは100μメートルほど。実際に見てみると小ささも実感でき、発生研究を身近に感じてもらえたと思います。
そして、今回の催しに合わせて公開した新展示エルマー・バイオヒストリーの冒険―鳥になったリュウです。エルマーの冒険の物語では捕らえられたリュウを助け一緒に空を飛ぶのですが、エルマー・バイオヒストリーの冒険では、恐竜が鳥になる夢を語ります。鳥類の恐竜起源説を決定づけた田村先生の講演と合わせて、小さな子どもたちも一緒に楽しみました。
(SICP 日記 【BRH公開セミナーを終えて】もご覧ください)
第二部:討論会「新たなモデル生物の開拓者たち」
第二部:討論会「新たなモデル生物の開拓者たち」では、田村宏治先生のソメワケササクレヤモリとトラザメ、大阪大学の西野敦雄先生がワカレオタマボヤ、名古屋大学の新美輝幸先生はナミテントウ、研究館からは尾崎研究員のナミアゲハ、小田研究員のオオヒメグモが登場しました。司会進行は表現セクターの村田チーフが務めます。それぞれ自慢の生きもの紹介をしてから、討論に入りました。
生きものとの出会いから始まり、モデル生物が意外に身近にいること、それを実験に使う目的や工夫が語られ、採集や飼育の苦労話には笑いも起きました。質疑応答では、個性的な生きものに対して、独自のモデル生物を使うことについての実験の再現性や飼育の継続性など研究面での質問から、このような場で研究者が外から研究を見ている方々と語り合うことの意味にまで展開しました。モデル生物は実験のツールではなく、研究者がその生きものを通じて生命を解き明かす研究姿勢そのものであることを共有する時間となりました。
(ラボ日記 【先日のBRH公開セミナーについて:小田広樹研究員】もご覧ください)
第二部終了後は、引き続き展示へ。モデル生物の紹介コーナーでは、討論会を踏まえて生きものを見てお話を聞こうと人だかりができ、閉館時間まで交流を深めました。
これからもこのような催しに参加したいという声も多数届き、研究と生きものを実際に触れ、じっくり考える半日になりました。