サマースクール 2004年度の報告

昆虫と植物の共進化ラボのサマースクール
「アゲハチョウの前脚にある、幼虫のための味見の秘密を探ってみませんか?」




私たちのラボでは、体の組織によって働いている遺伝子の組み合わせが異なっていることを確かめる実験を行いました。私たちの体も、昆虫の体も、いろいろな部品が組み合わされてできています。基本的には全ての細胞に同じゲノムが存在しているのに、なぜ組織の違いが現れるのかというと、組織ごとに働いている遺伝子の組み合わせが異なるからです。遺伝子が働くときには、ゲノム上の遺伝子の情報が mRNA に読み取られ、mRNAの情報をもとにタンパクが合成されます。ゲノム DNA を抽出した場合にはどの組織からも同じものがとれますが、RNAを抽出した場合には組織ごとに異なるものがとれます。この原理を利用して、いろいろな組織からRNAを抽出することで、組織間で働いている遺伝子の違いを比較することができます。

ナミアゲハの幼虫は、ミカン科の植物のみを餌として利用します。このため、雌成虫が正確に植物種を認識して、幼虫が食べることができる植物に産卵しないと、卵から孵化した幼虫が餓死してしまいます。では、どうやって正確に植物種を識別するのかというと、その秘密は前脚にあります。昆虫の脚の先端部に「ふ節」という部分があります。雌成虫の前脚のふ節には、感覚毛と呼ばれる味を感じるための毛があります。雌成虫は産卵の直前に前脚で葉の表面をたたき、ふ節の感覚毛で味見をしてから産卵するのです。このことから、雌成虫の前脚ふ節では、「味を感じる」という特徴を作り出す遺伝子が働いていて、他の組織ではこの遺伝子は働いていないと考えられます。

私たちのラボの参加者は4人の女性でした。組織間で働いている遺伝子の違いを観察するため、ナミアゲハの触角・口器・頭部・胸部の4カ所から、担当者を決めてRNAを抽出しました。どの組織を担当するかは早い者勝ちで希望を言ってもらった結果、偶然にも作業の難しい組織から順番に決定しました。液体窒素で組織を凍結し、乳鉢の中でさらさらの粉末状に粉砕した後、薬品で処理してRNAを抽出しました。抽出したRNAは逆転写反応でいったんDNAに変換し、PCR法で遺伝子の増幅の有無を確認しました。肝心の前脚ふ節は組織量が少ないため、たくさんのチョウから集める必要があるので、前もって用意したものを使いました。今回増幅を試みた遺伝子は、味覚受容体遺伝子、嗅覚受容体遺伝子、生物時計遺伝子の3種類です。初めて実験をする人には難しい作業かとも思っていたのですが、結果は見事に味覚遺伝子は雌の前脚ふ節でだけ働いていること、嗅覚遺伝子は主に触角で働いていること、そして生物時計遺伝子は体中のいろいろな場所で働いているということが確認できました。参加者の皆さんが熱心に説明を聞いて、一生懸命に作業をした賜物ですが、ここまでうまくいったことに正直なところ驚いています。

報告会の準備も全て参加者の皆さんにお任せしたのですが、随所にキラリと光るアイデアが見受けられました。来館者向けの解説や学会発表等、研究内容について説明する機会が多くありますので、今後の参考にしたいと思います。二日間という短期間で、ここまで私たちの研究について理解していただけたことをとても嬉しく思っています。

尾崎克久(研究員)

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