ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。 月二回、スタッフが交替で更新しています。

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ゲノム編集技術、クモで使うのは難しい?

2013年7月1日

小田広樹

先月(5月)末に松江で日本発生生物学会があり、参加しました。今大会の一番のトピックはTALENと呼ばれるゲノム編集技術やそれに代わる類似の技術についてでした。これらの技術は、動物の初期胚に比較的簡単な操作を施すだけで、ゲノム内の任意の遺伝子に傷を入れたり、遺伝子を部分的に改変したりすることが短期間に低コストで可能になります。この技術の注目すべき特徴は、これまでの研究基盤の積み上げが必ずしも十分でないマイナーな生物の研究であってもその技術を活用するチャンスがあることです。ゲノム解読技術と並び、生物多様性研究の中心的技術に発展することが期待されています。

本来、オオヒメグモを使っている私たちにとって朗報であるはずのこの新技術ですが、残念なことに、今のままではその技術をすぐに私たちのクモに適用することは難しいと思われます。最大の問題は、私たちのクモでは操作した初期胚を成体にまで育て上げられないことにあります。どのゲノム編集技術を用いた場合でも、クモのゲノム内の特定の配列を認識するためのタンパク質またはRNAを初期胚の細胞(できれば生殖系列の細胞)に導入する必要があり、そのために卵に微小針を用いて注射を行わなければなりません。その際、クモでは卵の乾燥やダメージをさけるために注射をオイルの中でやらなければならないのですが、注射後に卵の中で育ってきたクモの幼生を無事にオイルから救出することができないのです。

時代の新たな流れを生み出している新技術を活用できないのは私たちとしては非常に残念です。まだこの技術を諦めた訳ではありませんが、研究材料としてのクモの可能性を模索する努力は続けていきます。

ゲノム編集技術に加えて、学会でもうひとつ存在感を見せていたのが、多細胞構造体の成長や変形を二次元または三次元で記述するためのバーテックス(頂点)モデルです。クモ胚はこちらとの相性の方がよい気がします。

[ ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 小田広樹 ]

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