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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【微小昆虫の分類】

吉田昭広
 先日の休みに、「京都大学総合博物館」を見学する機会がありました。見学するのは初めてでしたが、自然系から人文系まで展示は多岐にわたり、見ごたえのあるものもたくさんありました。
 昆虫標本箱が多数展示してあるコーナーに、体長が1ミリぐらいの小さなハチ(ハエだったかもしれません。)がいっぱい入った標本箱がありました。1匹1匹それぞれに学名が示されています。見学に同行された方が、よくこんな小さなものが区別できる、と驚かれていましたが、確かに「専門家」の人たちはそんな「微小昆虫」の多くを(顕微鏡で拡大するまでもなく)目で見るだけで区別(=同定)しているようです。以前、分類されている「現場」を一度だけ見せてもらったことがあります。

 大学院の研究生として、ある共同研究の手伝いをさせてもらっていたときのことです。共同研究のリーダーで、チョウとハエの分類の専門家であるS先生が、近郊の山で採集されたハエ(死んでいます。)を紙の上に広げてピンセットで分類され始めたときに、たまたまそこに私が居合わせました。体長は1ミリぐらい(大きくても2ミリぐらい?)のものがほとんどだったと思いますが、目で見ながらピンセットを使って猛スピードで分けて行かれます。分類学の「しろうと」である私には、目を疑うような光景でした。いともたやすい作業を進めるかのようにピンセットでハエを分けながら、「ハエにはまだ名前のついていないものがいっぱいある。」「これも新種、これも新種、これも新種、...。」と言って、すぐそばで見ていた私に次々と示して下さいました。また「このハエの配偶行動はおもしろくて、...。」と、名前のまだついていないハエの「行動」の説明まで受けました。「しかし、まず名前をつけないと研究が始まらない。」とも。

 「微小昆虫」をたくさん目にすると、このときの光景がいつも思い浮かびます。高価な機器を使って行われる仕事ではありませんが、そこではヒトそのものが「極めつきの精巧な機器」として機能しているかのようでした。そのとき、(そうはしませんでしたが)もし私が「すごいですね...。」と話しかけたら、S先生はきっと「これくらいのことはできないと、昆虫分類学はやっていけない。」と答えられたと思います。



[チョウのハネの形づくりラボ 吉田昭広]

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