ラボ日記
ラボ日記
研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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○○冥利につきる】
 
宇戸口愛
 ちょうど今、修士論文を書いています。BRHに私が来て、もう2年が経とうとしています。いもむし大っ嫌いの私が、チョウの研究なんかできるのかな!?と心配していたのが嘘みたいです。

 BRHでの2年間を振り返ってみて、ふと浮かんだのが、【冥利につきる】ということばでした。ぱぱぱっと辞書を引いてみると、【自分の立場や状態などによって受ける恩恵が、あまりにも多くて有り難い】という意味でした。うん、まさしくその通り。そう思いました。

 私が特にBRHで大事にしたことは、「いきものの本物を見る大切さ」です。
 研究をする中で、自分自身が見ることで知った本物の「いきもの」が、たくさんあります。たとえば、キアゲハの幼虫は、狭いスペースにひしめき合って押し込むと、イライラするのか、となりの友達にかみついてしまいます。逆にギフチョウの幼虫は小さいうちはとっても仲良しで、みっちり並んで一斉に葉っぱを食べます。カラスアゲハの幼虫は、「わっ!!!!!!」と大きな声を出したりすると、びっくりして一生懸命体を持ち上げて左右に揺れ、(たぶん)ヘビのまねをしようとします。たくさん食べたあと、幼虫は「消化のポーズ」をとりますが、たまに食べ過ぎたのか、ぴくぴくっと震えている子がいて、テレビの「サザエさん」の最後の、食べ物をノドに詰まらせるシーンを思わせます。ナガサキアゲハは前脚をあげて餌を飲むのが好きです。培養細胞だって、元気がいいときと、調子が悪い時は、一目でわかります。

 私は、自分自身が日々の研究生活でみつけた、面白いものや、不思議なもの、ぱっと見ただけじゃ気づかないもの、そういうものを、イベントや見学で館に来てくださったお客さんに「こっそり教えちゃう」のが大好きでした。正直なところ、虫や植物に関する知識レベルは素人で、たまにお客さんの方が詳しかったりして、申し訳ないなと思うこともありました。でも、ちょっと気まぐれで幼虫の樹脂包埋標本を作ったり、幼虫やチョウを生きたまま連れて行って、お客さんにさわって、手の上で自由に観察してもらうということをやってきたのですが、これが意外と好評で、誰もが一生懸命それを「見よう」として、間近で見ることで様々な発見をして下さいました。これまで全く知らなかったことを新たに勉強して知ることは言うまでもありませんが、今まで知っていると思っていたものの、知らなかった部分を知る、というのは、なんだか興奮して嬉しい気分になりませんか?裏技、とか、抜け道、とかがなんかイイモノに思えるのと同じ感覚だと自分では思っています。
 私は、BRHにはそれがたくさんあると思います。もちろん遺伝子の話や進化の話を知ることもできます。でも、それよりも、身近な生き物がたくさんいて、それを毎日研究している研究者がいます。研究者には「勉強になる話を聞かなくちゃ」と思われる方も多いと思いますが…、本当は、研究者がそのいきものにどんな魅力を感じているのか、普段どのようにそのいきものに接しているのかを、直接話して聞けることに、このBRHの魅力はあると思います。私はBRHに来て、そんな話をたくさんさせてもらえたこと、そんな私の話に興味を持って、お客さんがきらきらした目でチョウや幼虫を見る姿に出会えたことが、本当に冥利につきるなと思いました。「研究者冥利に尽きる」、ということばでは、この感覚は表現できません。あえて言うなら、「BRHの一員としての冥利に尽きる」といった感じでしょうか。まさにBRHの一員として、受ける恩恵があまりにも多くてあり難い限りです。

 本当に、ここでの2年間で得たものはとてもたくさんあって、ラボ日記くらいのスペースじゃ全然書ききれません。中村先生、宮田先生のコラムの次に、「宇戸口コーナー」を設けてもらわないと!という感じです。もし、読みたい方がおられましたら、SICPまでリクエストお願いします。特設コーナーができるかもしれません(笑)

 いま、この2年間の総まとめとして修論書いています。だけど、学会発表やイベントやセミナーや虫採りなど、修論には書けない大事なものを、ここでは山ほど経験させて頂きました。あとは修論発表。今日も徹夜明けですが…ラストスパート、頑張ります!




[チョウと食草の共進化ラボ 宇戸口愛]
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