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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【眼から鱗?】

秋山-小田康子

 眼から鱗が落ちる、とでもいうのか、「あぁそうだったのか」と急に目の前が開けたように感じる経験をすることがあると思う。私は普段からぼけっとしているせいか、急に新しい見方を提供されて嬉しくなったりすることが多々ある。高校の生物の授業ではじめてDNAのことを習ったときも、そのような感覚を持った。生き物を非常に特別に思ったりするけれど(もちろん特別な存在には違いないのだが)、生物の体も化学式で表せるような物質でできあがっていること、そして体をつくる情報というものがあって、それもまたDNAという「物質」であることは新鮮な驚きだった。冷静に考えれば生物の体だって物質なのは当然なのだけど、あの驚きがあって、今こうして生物の研究者をしているのだと思う。反対に、とりわけ科学好きでもなかったし、もちろん生物おたくでもなくて、高校生になるまでそんなことを考えてみたこともなかったのに、よく研究者をしているよな、とも思うのだが。大学の実習で行ったゾウリムシの走化性実験の時にもそのような感動があった。ゾウリムシが、ある化学物質に対しては向かっていくし、また別の物質に対しては避けるように行動するというものだった。そのときのゾウリムシの様子は「お、何か、よいものがあるぞ」とか、「嫌いなものがきた、逃げろー」というふうに行動しているように見える。そこには、表面にあるイオン・チャンネルで物質の濃度を感じて、それによって繊毛の動きが変わり、結果として動く方向が変わる、というメカニズムがあるらしい。ゾウリムシを眺めていて突然思ったのは、もしかしたら人間の好きとか嫌いとか、興味がある、面白いとかいった「フクザツな」精神活動も、ゾウリムシの行動のようなシンプルな反応の集積に過ぎないのでは、ということ。人間の活動だって案外と簡単なものなのかも知れない。
 いま研究者として研究をしていて思うのは、自分で明らかにした生物の体の中のできごとや生物と生物の関係に関して、ほかの人(研究者)に「そうだったのか!」「考えたこともなかった!」と、眼から鱗を落とさせることができたら、それが面白い研究なのかも知れないということだ。



[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 研究員 秋山-小田康子]

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