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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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森の防波堤できないでしょうか

2012.3.15

中村桂子館長
 1年がたちました。その間にさまざまなことを思いましたが、先程たまたま館の仲間と瓦礫の話をしたので、それを取り上げます。
 昨秋、宮脇昭著“瓦礫を活かす「森の防波堤」が命を守る”という本を毎日新聞の書評欄で紹介しました。新聞社の方たちもこの考え方に賛同していらしたのを思い出します。宮脇昭先生には、神奈川県の環境委員を御一緒していた大昔、樹や草の名前をたくさん教えていただきました。忘れっぽいのでどれだけ覚えているかあやしいのですが。その頃からドイツ仕込みの生態学を熱く語られ、その後それを実践した「ほんものの森づくり」を日本各地で実践していらっしゃいました。日本列島本来の樹木はタブ、シイ、カシ類。東日本大震災後の現地視察で、タブノキ、カシ、マサキ、ヤブツバキなどの海岸林は津波に耐え、更には止めていることを知ったと書いていらっしゃいます。
 そこで、津波で生まれた瓦礫のうち、木、コンクリート、レンガを土と混ぜ、土盛りしたかまぼこ状の堤を作って、タブノキなどの苗を植えようという提案が生まれました。幅30〜100m、高さ10mほどの堤は、十数年後には30mを越える緑の壁となるでしょう。三陸海岸に300キロ続く緑の長城を作ろうというのです。すばらしい光景が眼に浮かびます。瓦礫処理は少しも進まずにいます。遠くへ運ぶより、海の側で丘を作る方が現実的と思われますのに、この考えは受け入れられず、高さ20mのコンクリートの防波堤が現実のものとして議論され、予算もそちらに動きそうな様子です。20mのコンクリートの壁がある海岸をどうイメージしてこういう提案をされるのでしょう。
 自然を生かし、美しく、しかも災害に強い暮らしの場をつくるという発想はないのでしょうか。因みに、瓦礫を使った堤づくりは、海外で実例があるのだそうです。現実の動きがないのは、瓦礫の種類によって関わる法律が違ったり、管轄が異なったりという面倒なことがあるからだとも聞きました。それを乗り越える方法はいくらでもありそうに思います。読んで下さっている方の中にも法律、土木、生態・・・などなどいろいろな専門の方がいらっしゃるに違いない、こういう壁を乗り越えるにはどうしたらよいのかを教えて下さるに違いないと思っています。

 【中村桂子】


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