中村桂子のちょっと一言
中村桂子のちょっと一言
館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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2010.7.15 

【生きもの上陸大作戦 — 絶滅と進化の5億年】
 
中村桂子館長
 このところ、「生きもの上陸大作戦」の展示をつくることに入れこんでいますとここでも書いてきましたが、実は今日、標記のような本ができました。館内の展示を見ていただく時の案内書であると同時に、遠くでいらっしゃれない方に、せめてこの本を通して生きものたちの挑戦を知っていただきたいという気持で作った本です。PHPサイエンス・ワールド新書、編集者の水野寛さんの理解ある応援でオールカラーです。研究館のギャラリーに展示している9メートルの絵巻が載っていますし、なかなかきれいな本になりました。本にまとめるために資料を読んでいるうちに、興味深いことが次々と出てきてまだまだここには考える素材がたくさんあるなあと思いました。
 その一つが “絶滅” です。苦労して上陸し、進化し、多様化していくと、地球の状況が大きく変化して絶滅の危機に出会うというくり返し。少なくとも上陸後の5億年の間に5回。種の70%〜90%が消えたのですから、地球は厳しいところだと思います。太陽系の中で、液体状の水が豊富に存在し、豊かな生命を生み出した美しい星というのが地球のイメージであり、その通りなのですが、それは、決して甘いものではないことも事実です。絶滅をひき起こす原因は、隕石落下のような外因もありますが、地球内部のマントルの動きによる噴火など地球の活動そのものに、温度を上昇させたり、低下させたり、その結果大気の組成を変える力があることがわかってきました。ここでとても興味深いのは、絶滅の後は進化が加速されていることです。地球は厳しく、生きものはしたたかなのです。今、地球環境問題が関心を呼び、生物多様性という言葉がしばしば聞かれます。生物は多様であることで継続してきたのですから、それが重要であることは確かですが、人間が多様性を守ると言う前に生きものとしてのヒトが多様な生きものの一つであるという認識を持たなければいけないとつくづく思います。美しい星、共生という言葉を使うとなんだかそれでよいと思ってしまう危険があります。自然を考える時は、やはり厳しさを視野に入れなければならないと思うのです。絶滅は何度もあったのだから気にすることはないなどと言っているのではありません。生きものとして生きるという基本を見なければならないということでこのテーマはまだまだ考えることがたくさんあると思っています。20日にはお店に出るとのこと、楽しい本になっていますので、ちょっと手に取ってみて下さい。

『生きもの上陸大作戦 — 絶滅と進化の5億年』のカバー
『生きもの上陸大作戦 — 絶滅と進化の5億年』のカバー
『生きもの上陸大作戦 — 絶滅と進化の5億年』のカバー
上陸絵巻のワンシーン(※クリックすると拡大します)


 【中村桂子】


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