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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【changeと構造改革】

2008.11.17 

中村桂子館長
 次期の米国大統領はオバマさんに決まりましたね。どんな人なのか、どれだけの能力があるのかは、まだよく分かりませんが、47歳という若さでフットワーク軽く、アメリカを普通の人が暮らしやすい社会にして欲しいと思います。アメリカがそのようになるということは、そのまま世界中が暮らしやすくなるということにつながりますから。オバマさんの演説は魅力的で、子どもも惹きつけたと言われます。演説がうまいだけでは困りますが、生命誌研究館でもいつも心がけているように、“適確な表現”、“人に語りかける表現”は大事です(何でも研究館に引きつけると言われそうです)。そこで、“Change.”という呼びかけに関心が向きます。これに対して人々が“Yes, we can.”と答えていますからchangeは名詞ではなく、“変わろう”または“変えよう”という動詞での呼びかけでしょう。研究館でも“動詞で考える”ことを続けています。名詞は思考停止を起こすからです。“癒やし”という言葉をつくられた東工大の上田さんに、癒やすを「癒やし」にしたことで起きる問題点を申し上げましたら「確かに名詞はパッケージ化されますね」とおっしゃいました。なるほど若い世代は表現が違うなと感心し、教えられました。パッケージになってどこにでも運ばれ、いい加減になっていく危険を抱えているわけです。
 小泉内閣の時に“構造改革”が叫ばれましたが、いったい誰が何をどう改革するのかがわからないままに、多くの人が「改革」という言葉でワーッとなびき、思考停止に陥りました。とても危険でした。そして今になって小泉批判が表に出てきています。あの時わかっていたはずなのに、考えようとしなかったことの帰着であり、名詞の恐さです。オバマ大統領が誕生したことによって、何が変わるのか、何を変えるのかはまだわかりませんが、“Yes, we can.”と言った人が何も考えないことはないでしょう。研究館では、動詞で考えることを続けたいと思っています。そうすると、ほんの少しづつですけれど、本当のことが見えてきます。動詞で考えることをおすすめします。

 【中村桂子】


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