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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【作ってきたものを発信】

2007.11.15 

中村桂子館長
 研究館の構内のサクラが今とても美しい紅葉です。サクラは花もきれいですが、紅葉もきれい。今年はまだ紅葉見物に行っていません(なんだか暇がなくて)ので、まずこのサクラで楽しんでいます。
 生命誌研究館はResearch InstituteでなくResearch Hall。と改めてこんなことを書いたのは昨年から今年にかけて、Hallとしての活動が、本という形で外へ出ることが続いているからです。皆がコツコツ作ってきたものがまとまった形で出せるのは嬉しいことです。今年の3月に『「生きている」を見つめる医療 ― ゲノムで読み解く生命誌講座』(講談社現代新書)、4月に『いのち愛づる姫 ― ものみな一つの細胞から』(藤原書店)を出しました。今、「What's DNA」がDVDとして入っているブルーバックスのDVD版と「サイエンティスト・ライブラリー」の中からシニアの方15人に登場していただく『生命研究のパイオニアたち』(化学同人)を準備しています。どちらも編集の最終段階に入っています。
 自分のものはほめないという習慣を振り切って申し上げるなら、どれも中身の濃い、良質の本という自信があります。ただ、最近はサラッと読めるものが人気で、歯ごたえのあるもの、大事なことをていねいに書いたものはなかなか読んでもらえないという悩みがあります。研究館のホームページという内々の場を使って、これから数回本の紹介をしたいと思います。
 今日は『「生きている」を見つめる医療』です。これは、前にも書いたかも知れませんが、同じ高槻にある大阪医大の「医学概論」の教科書として作ったものです。大阪医大は、主として開業医をめざす医師を育てる大学として高く評価されているのですが、最近そこに入学する学生さんが“生きものとしての人間”について学んでいないという状況が続いているのだそうです。高校で生物学を勉強しなかったというだけでなく、小さい頃から自然の中での生きものに接した経験が少ない。医学部での勉強は、人体の各部の名称をおぼえるところから始まり盛りだくさんで、それは技術者としての医師にとってはとても重要です。ただ私たちがいざ病気になった時に診ていただくお医者様は、それに加えて、生きるということ全体を考えている人で欲しいという願いがあります。それには生きものとしての感覚を持つ人であって欲しい。これは生命誌からの願いです。本当は小さい頃に自然に身につくのが望ましいのですが(これは医師に限らずすべての人に望むことです)、現代社会はそれを許していないので、医学・医療という専門と結びつけて、“生きているということを見つめる”ことができたらと思いました。長くなりました。本の内容は次にゆっくりと紹介したいと思います。そして、その後他の本も。このホームページの中くらい、時間がゆっくり流れてもよいかなと思っています。


 【中村桂子】


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