中村桂子のちょっと一言
中村桂子のちょっと一言
館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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2007.11.1 

【アインシュタイン・空海・多田富雄先生】
 
中村桂子館長
 10月18日の夕刻、東寺の講堂前の特設舞台で上演された能「一石仙人」を鑑賞しました。東京大学名誉教授の多田富雄先生の新作能で一石はEinstein。学生時代から小鼓をたしなまれた多田先生は、たくさんの新作能を作っていらっしゃいます。残念ながら脳梗塞で体が不自由になられましたが、車椅子で能楽堂に通っていらっしゃるとのことです。先生は、「能は異界からの使者が現れる場」とおっしゃって、現代科学の探り出した宇宙観の表現には、時を越えて現世と異界を往き来する能が適していると考えられてこの「一石仙人」を作られたとか。
 東寺での夜は、半月に少し満たないくらいの月がちょっと霞んで上空にかかっており、美しい舞台でした。講堂の中には、世界観の表現としてこれほどみごとなものはない空海の立体曼荼羅があるわけで、空海、アインシュタイン、多田先生の世界観が複雑に絡み合う力を感じました。
 下京あたりにいた双子の兄弟のうちの兄が7歳の時天狗にさらわれ、10年たって帰ってきた時、10歳くらい。弟の方は成人し、父母も老いており、「まことにうつつとも覚えずとて涙を流す」というお話として、相対性理論が語られます。その後登場する一石仙人は、宇宙を語り、原子の力を示した後、「これを争いに使うな」と語った後、ブラックホール(東寺の講堂)に消えていきます。
 多田先生は、自然を広くまた深く考える場として「自然科学とリベラルアーツを統合する会」を結成され、私も仲間に入れていただいています。今回の公演もその会の活動としてなされたものです。生命誌も広くまた深く、生命を考えて行きたいというところは同じ気持です。こういう考えをもつ人が少しづつでもふえていくとよいなと思います。


 【中村桂子】


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