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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【台風9号でちょっとした騒動】

2007.9.18 

中村桂子館長
 9月6日木曜日。台風9号が東海・関東に向っているというので、庭木は大丈夫かなとか、ハチくんはちゃんと避難してるかなと心配になり、メールで確認(実は、家の中のちょっとした連絡に便利だからと3日前にケータイなるものを持たされ、目下メールの練習中なので、電話でなくメールです)。特段問題なしということで休んだのに、翌朝6時頃メール。いくら訓練中と言ってもなんでこんなに早くからと少々腹を立てながら開くと、「お向いの槐(えんじゅ)が倒れて塀が壊れた」と写真つきです。お向いの槐と言えば、大人一人では抱え切れないほどですし、三階より高い、まさに大木です。午前三時頃に倒れたそうで、通行人もおらず、我が家のレンガの塀がこわれたのと、松の木が一本、頭と枝を全部折られて裸ん坊にされたのとが被害。こういうのを不幸中の幸いというのでしょう。
 夕方帰ってみると、東京電力と植木屋さんの車が止まって、電線を直したり、木を切ったり。一日がかりの片づけ仕事のようでした。そんなすごい風だったのかなあと思っていたら、新聞に「朔太郎の座敷、倒木で壊れる」とありました。前橋で深夜から未明に15mほどの松の木が倒れ、萩原朔太郎の生家を移した記念館の屋根が壊れたのだそうです。まさに同じ頃です。家は屋根でなくてよかった。
 そういえば、林を歩いていれば始終倒木に出会います。苔が生え、そこに落ちた種子は光も養分も水分も充分なのでよく育つ。自らが倒れて次世代を育てるわけで、まさに世代交代の象徴と教えられてきました。ところが、今まで身近にある木をそういう眼で見たことはありませんでした。武蔵野の雑木林の中に人間が入りこんだわけで、倒木もあって当然なのだと初めて気づいた次第です。毎年きれいな黄色の花をつける槐も、寿命だったのでしょう。実は、その花、散ると道いっぱい眞黄色になり、きれいだけれどお掃除が大変でもありました。もうお掃除しなくていいんだと思うとホッとするような悲しいような。槐に御苦労様とねぎらいの言葉を送ります。


 【中村桂子】


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