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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【楽しいけれどちょっと忙しい春】

2007.4.16 

中村桂子館長
 4月。研究館の前の桜が今満開で、今朝は近くの幼稚園の子どもたちがお花見をしていました。開館の時に植えられた小さな木を思い出すと、時の流れを感じます。新学期を欧米に合わせて9月にする話もあるようですが、日本の風土の中では、花々が日を追って黄色、白、ピンク、紫と美しい色の絵巻を展開してくれる4月には、どこか始まりを思わせるものがあります。
 とくに今年は、3月に寒のぶり返しがあったこと、3月はなぜか週末に仕事があり、家で過ごす時間がとれなかったという個人的事情があって、4月に入っての週末に一度に“生きている”体験をしました。
 始まりはいつもの台所のアリです。土曜日、お昼用の茶巾ずしを調理台の上に置いたまゝ、近くの“桜まつり”に出かけました。私の住む街、成城は、成城学園創設の時に学園の先生方の住居を中心に生れた学園街です。その時に街路樹として植えた桜が、今では大木。むしろ老木と言った方があたっているのですが(BRHとの歴史の差です)、道の両側から花のトンネルを作っています。その下に、近所のお菓子屋さん、近くの農家の直売所、フリーマーケットが並び、犬を連れた人、乳母車を押す若夫婦、ゆったり歩く老夫婦などなど・・・近所の人々で賑わいます。ふるまわれた甘酒を飲み、デザートの桜餅を買って、おいしくお昼をいただきましょうと帰ってびっくり。調理台の上にアリがいっぱい。お寿司の容器のまわりは黒い塊、お寿司に到達したものも10匹ほどいます。うっかり、春になったことを忘れていました。中のアリを取り除こうと、容器を持ち上げたら、パっと散ったアリがいっせいに止まりました。死んだふり。驚いたのは、その時、流しの反対側の調理台やパイプ棚の上を歩いていた仲間もすべていっせいに止まったことです。どうやって情報が伝わったのか。ここで知りたいのは、いつどうやって動きだすかです。暫く見ていましたが、なかなか動きません。10分ほどして、お茶の支度をしなければならないと、ちょっと眼を離した時。たまたま調理台に近づいた家人が「動いた」と大声。とんで行ってみると真中あたりの一匹が動いています。そして、いっせいに全員が動き始めたのです。もちろんパイプ棚の上の20匹ほども。道しるべフェロモンという話はよく聞きますが、こういう場合の情報伝達はどうやっているのでしょう。危機情報の伝達は、とっても大切なことですが、私たちにはこれほど上手にはできそうもありませんね。アリの情報伝達について教えていただけませんか。
 アリの話が長くなりました。他は、ニリンソウが花ざかり。今や武蔵野から消えつつあるニリンソウですが、家の庭は相性がよいらしく、とても元気です。その名のとおり二輪の白い花が可愛く、近所の方も楽しんで下さいます。ニリンソウのまわりの草取りをしていたら、ヨモギがやわらかい緑を見せていたので、早速草餅づくり。春は楽しいけれどちょっと忙しいですね。


 【中村桂子】


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