中村桂子のちょっと一言
館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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2003.12.15 

【戦争はない方がよいとわかっているのに】
 
中村桂子館長
 イラクへの自衛隊派遣が現実の問題になってきました。しかも情勢はますます混沌とした中で。主義・主張の問題としてではなく、“いのち”を考え続けてきた者として、このまま進んではいけないという赤信号が見えています。未来は誰にもわからない。いつも後になって、なぜこんなバカなことをしたんだろうと思うのです。私の世代は、子どもとしての第二次世界大戦の記憶があります。そして、戦後歴史を勉強し、当時大人だった人たちは、なぜあんな戦争をしたのだろう、よく考えて戦争でない方法で解決することもできただろうにと思いました。ところが今、私が大人として暮らすこの社会で、恐らく“なぜこんなことをしたの”と問われるにちがいないことをしている。総選挙という機会があったのにそれが生かせなかったのは国民としての大きな責任ですし、社会の一員としてその方向を変えられない無力感に悩みます。イラクへの自衛隊派遣が時代の流れとして気になるのは、恐らくこれが憲法第9条の改正につながっていくだろうということです。
 平和は誰もが望むことでありながら、今この言葉を口にすると “平和ボケ”と言われて現実を見ないおバカさんとして扱われ、日米関係だの国際貢献だのという言葉の下に、戦争を肯定する方が正しいかのような雰囲気になっています。でも、未だにアフガニスタンでも、危険人物がいるという情報による空爆で“子どもたちが9人死亡”というような事実を知らされる日が続く状況がよいはずがありません。
 一つの国が戦争をしないという憲法をもち、しかもそれが曲りなりにも半世紀もの間守られてきた。こんなこと“常識”では考えられません。奇蹟と言ってもよいでしょう。日本の憲法は、変な表現をするなら“ヒョンなことからできてしまった”から“戦争を永久に放棄する”という信じられないような言葉が入りました。“国”を意識して制定したらこんなことできるわけがありません。でも、半世紀の間私たちはこの憲法の下で世界の中での存在感を示しながら、暮らしやすい社会を作る努力をしてくることができたのです。この事実を“活用”すべきでしょう。もし、今日本がこれを捨ててしまったら、二度と再び、世界中のどこの国でも、憲法の中にこんな項目を入れる国は出てこない。
 世界中の人々が戦争をしながら暮らすより(一生を戦争の中だけで暮らしてしまう人もでてきますし、子どもが生命を失うこともあります)、なんとか戦わずに暮らす努力をする方が望ましいことは明らかです。それを“非現実的”ときめつけずにこの半世紀の体験を“武器”に、その方向に向けて戦うことを選びたい。それが今の気持です。
 国際貢献は必須です。日米関係も大事です。しかし今という時を、歴史の中に位置づけた時、“なんであんなバカなことを”ということにならないようにと考えるなら、一度米英軍に引きあげてもらって、国連主導のイラク復興に積極的に参加するという選択をし、それを提案することでしょう。そのためには、大変な外交力が必要でしょうが、今どこかでその方向への交渉が熱心に行われているとよいのだがと願います。何もせずに今の状況で“イラクに自衛隊を派遣しません”とだけ言えるわけはありませんから。本当の復興のために自衛隊の人々が働けるような“外交”に全力をあげて欲しい。歴史を見ると、いつも戦争の裏では大変な外交が行われていることが、公文書が公開されて秘められた事実が出てくることでわかります。第二次大戦だって、もし、あの交渉があそこでああなっていたらと思う事の積み重ねの中で・・・・結局真珠湾攻撃になってしまったわけです。歴史に“もし”は許されなくても、現在は“もし”に賭けて努力ができます。私たちも是非そうして欲しいという声をあげなければいけないと思うのです。どれほど圧倒的な武力を持っていても、それで勝利を得られるものではない。第二次世界大戦後の多くの戦いがそれを教えてくれています。力を見せるほど混乱が増します。武器を収めない限り収拾はつかない。これだけの体験がありながら、またそれをやっているのはなぜでしょう。クリティカルなところにいるのにノホホンとしていてはいけない。無力感にさいなまれながら思っています。
 11月29日に10周年行事を行い、今回はその報告をするつもりでした。生命を大切にする社会に向けての活動をしているつもりなので、長い目で見ると大事なことだと思っていますが、これは次の回にまわし、今とても気になることを書きました。


【中村桂子】


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