中村桂子のちょっと一言
館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
バックナンバー

2003.4.15 

【創り出すプロセスの共有−「畑の日記」】
 
中村桂子館長
 ケイ・タケイさんの「畑の日記」のお手伝いをしました。ケイさんは、昨年「根っこと翼」で一緒に考え、創り出す作業をしたダンサー(ポストモダンと言われているのだそう)です。ケイさんが、いつもでき上がった作品を舞台に乗せているけれど、実はゼロから出発して作品に仕上げるまでのプロセス、つまり創作の畑を耕したり、タネをまいたりするところが一番面白いし、多くの人と共有したいところなのだと考えたのです。そこで「畑の日記」、つまり日常そのままを見てもらうという試みをすることになりました。狭い芸術だけではなく、さまざまなものが創作の源泉になっている。とくに生命誌は日常の考えに刺激を与えてくれるので、私も創作過程に参加して欲しいと言われ、幸い土曜日がおけいこの日なので、時々仲間入りしてきました(今回は体を動かすのは許していただいて)。ムービング・アースというケイさんの若い仲間たち八人と「月の石」。「月の石」はダウン症などで体を動かすのが難しいのだけれどダンス大好きな人たち。ケイさんが日常ダンスを教えているグループです。プロと、大好きという純粋な気持ちでダンスを心から楽しんでいる人たちとが一緒になって創作していく。この二つがケイさんという振付師(今回は杖つき振付師で、プロを相手の時は自分は踊れず指示をするだけ。「月の石」と一緒の時は、思いっきり動いて一緒に楽しむという二面をもつ)を通して日記を書いていく様子は本当に面白いものです。ダウン症で体の動きが不自由な人たちが自分の動きの中から得意技を見つけ出していくところ、それを自信をもってパフォーマンスにしていくところはありふれた表現ですが、みごとという他ありません。
 プロセスを多くの人と共有したい。プロとアマの協働。気づいていただけたでしょうか。研究館がいつも考えていることです。研究の成果だけでなく、考える楽しさ、問題を見つける難しさ、小さなことでも自分だけのものを見出せた時の喜び・・・・まさに生命誌という「畑の日記」です。今回、「ムービング・アース」や「月の石」の人たちとの作業を記した私の「畑の日記」は次のようなものになりました。「根っこと翼」が踊る人たちの創作への刺激になっているので、それを踏まえて基本は同じにして書くという試みをしました。根っこの大切さ、続くということのスゴさなどなどまったく同じところから出発して、畑について考えます。

〈 畑の日記 〉
昨日、畑に盗っ人(ぬすっと)がはいったの
トマト、ピーマン、キュウリ、ナス
赤や緑や紫、丸いの長いの
畑に溢れるさまざまな色と形を
楽しんでいたのに
1週間もしたらカリッとした歯ざわりや
みずみずしさを味わえると楽しみにしていたのに

でもあの盗っ人は眼がないな
畑の力は……… 土なのに
遠い昔、地球は海と岩の世界
生きものは一つもいなかった。土もなかった
今は豊かな土があり、たくさんの生きものがいる
今から120年ほど前。進化論で有名なチャールス・ダーウィン
がすばらしい発見をしました。論文の題名は「ミミズの行為
による肥沃な土の形成とミミズの習性の観察」。地球に豊かな
土を作っているのはミミズなんですって。40年間も土と向き合って観察したダーウィンの発見です。だから、本当の畑の力は……… ミミズ。
何億年もの間、土の中を上へ下へと動きまわって
土を作ってきたミミズをみつめよう。 
小さなミミズからあふれ出る知恵が見えてくる。 
その時あなたの体に湧き出る力。
畑を作る人は、ミミズの知恵が見える人
ミミズの力を借りて、土をより豊かにできる人

それにしてもあの盗っ人はわかってないな
畑の宝は…… 根だというのに
トマトもキュウリも
たくさんの緑の葉に
太陽の光をいっぱい受けて
新しい実をつける準備をしている
すべてのエネルギーの源である日の光を
そのまゝ受け止められるのは植物
それを支えるのは根
植物には根があります。根の役割は二つ
一つは植物の体を支えること。もう一つは
土の中の水や養分を吸い上げて植物を育てること。
地上にある芽や葉の細胞はお日さまに向ってのびる
性質を持ち、根の細胞にはお日さまから遠くへ遠くへ
と進む性質があります。
根元、根本、根性……
根さえあれは新しい実がつく。
大きくておいしい実が。
土の中の根の力を知った時、
あなたの中に土とのつながりが生まれる
畑を作る人は根を感じる人
根を大切にして、土をより豊かにできる人

それにしてもあの盗っ人は何も知らないな。
畑の素は……… タネなのに
作物はいつか枯れるけれど
必ずタネを残す
トマトはトマト キュウリはキュウリ
それぞれに それぞれのタネ
生きものの特徴は続いていくこと。トマトもキュウリも
私たち人間も親から生まれてきます。
すべての生きものの祖先をたどっていくと、いつか
皆38億年ほど前に地球に初めて生まれた一つの細胞にもどります。海の中で生まれた細胞に。その細胞は海の栄養分をもとにどんどんふえ、その間にさまざまな性質をもつようになりました。そこから植物も動物も、そして人間も生まれました。
皆同じ祖先から生まれた仲間でありながら、それぞれの特徴を生かして思う存分生きている。それが生きものです。
すべての生きものはつながり
その根は38億年もの遠い昔にある。

そのつながりの中で
いつもいつも新しいタネをまき
新しい実を実らせている。

畑をつくる人はいつも新しいものを産み出す人
タネを大切にして、土をより豊かにできる人
生まれる時、一人一人に自分の畑があたえられます。
土を作る。どこまでもどこまでも掘っていく。カチンとあたる
小さな石。……いつからここにあったんだろう。
この畑で育つのは私
この畑に実るのは私にしか創れないもの。

 公演はシアターXで4月23日(水)〜27日(日)の5日間、午後7時から。今回は1000円シアターと言い、前売りをせずにその場で1000円払っていただくという新しい試みをしています。是非いらして下さい。場所は東京の両国、お問い合わせは、シアターX(※tel.03・5624・1181/fax.03・5624・1155  URL:http://page.freett.com/theaterX/0304.htm#hatake)です。

【中村桂子】


※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。
「中村桂子の「ちょっと一言」最新号
このウィンドウを閉じます
Javascriptをオフにしている方はブラウザの「閉じる」ボタンでウインドウを閉じてください。