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14. 発掘された音楽—ブラウンフェルスのオペラ『鳥たち』岡田節人の「音楽放談」

英国のロソドン社が"頽廃音楽"シリーズと名付けて、ナチス・ドイツの時代に演奏を禁止され、かつ抹消されたりした音楽を発掘し、録音して発売するという企画をはじめてから、もはや十年にもなるだろう。どのように発見されたのかは私には謎だが、ユダヤ人の強制収容所で作曲・初演され、そこで死を迎えた作曲家の音楽まで聴くことができるのだから、ここにはすさまじい近年の歴史の文化的証言がある。

ここで紹介するブラウンフェルス(1882-1954年、フランクフルト生まれ)の美しいオペラ『鳥たち』を聴くことができるのも、このシリーズのおかげである。なにしろこのオペラは、1920年にミュンヘンで、ブルーノ・ワルター指揮で、イフォギュソやエルプなどの当時の代表的名歌手を含む豪華キャストで初演され、大好評を得たにもかかわらず、作曲者がユダヤ系であるとの理由で、のちに上演は禁止され、戦後の71年に蘇演されるまで、というよりは、この頽廃シリーズとして全曲のCDが発売されるまで、忘却の彼方に去っていたのだった。

97年のJT生命誌研究館の活動の柱の一つは、鳥についてであった。『季刊生命誌』で鳥を特集し、鳥を主題においた「音楽に聴く生命誌」と題したオーケストラ演奏会も企画した。1年遅れとはいえ、『鳥たち』と題したこのオペラを紹介したいと思う。

もっとも、この台本は、アリストファネスのかの有名な同名のギリシャ喜劇を、作曲者がオペラ向きに書いたものであって、生命誌の中の鳥の音楽ではなく、鳥に名を借りた人間のドラマだ。つまり"音をつくる"という動物としては稀なわざをもつ生き物としての鳥を描く音楽ではない。登場人物の多くは鳥たちなのだが、自然の中の鳥の具体的な描写はごく少ない。

にもかかわらず、ここでは類い稀な生命誌の音楽を耳にすることができる。というのは、鳥たちのすむ地上を高く離れた生態圏が、じつに明白に、地上の人間のそれと音楽的に対比されているから。主人公の一人の男性(人間)が鳥たちの王国へと上昇するにつれて、音楽は清浄感をいやましてくる。ここには地平上の広がりの音楽的表現でなく、垂直的な高低が音楽として美しく創作されている。したがって、私たちは類のない珍しい音楽的体験を楽しむことになる。

音楽は、いわばR・シュトラウスを素朴にしたといえる趣きであるが、ポスト・ワグナー風の陶酔感はいっぱいあり、まったくうっとうしさのたい美しさに充ちていて、聴く者を、しばし鳥たちの生態圏へといざなう。

[参考]
歌劇「鳥たち」全曲。
ローター・ツァグロセーク指揮、ベルリン・ドイツ交響楽団。
(LONDON POCL-1729/30)