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2. 北欧の人の心と鳥たち岡田節人の「音楽放談」

写実画家に匹敵する写実作曲家は存在し得ない。自然は本質的には静寂であり、作曲家が写実すべき題材は、そこにはない。もっとも例外はある。鳥という動物は音をつくることができる。したがって、古くから半ば写実的に鳥の発声を模したり、それらからアイデアを得た音楽作品は少なからずある。

鳥を求めた20世紀の音楽家としては、メシアンがよく知られている。日本の軽井沢の鳥たちを題材にした作品もあり、日本ではなじみ深い。しかし、私がここで紹介したい鳥の音楽作品は、現代フィンランドの作曲家、ラウタヴァーラ(1928年生まれ)の作品で、1972年に初演された「極北への頌歌」(私の意訳)と名づけられた、演奏時間約17分余のオーケストラ曲(ただし小編成)である。

私が、この曲を、ここに紹介したい理由はいくつかある。そのなかには、この作品はまったく日本では知られていないこと、私自身が職業的な動機で、フィンランドの人たちととりわけ長くつきあい、かの国がなじみ深いものになってしまったこともある。しかし、このラウタヴァーラの音楽には、極北の地フィンランドと、そこに住む人たちの心と、かの国の自然との見事なまでの結びつきを実感するからである。

この曲の副題は、「鳥たちとオーケストラの協奏曲」である。これからもすぐ予想できるように、作曲家の創造のなかで模倣された鳥の声(たとえばべ一トーベンの田園交響曲の第二楽章)ではなく、生のものである。ときに鳥の声を、木管の高音域が奏することはあるが、多くは作曲家自身によって、実際に自然からテープに収録されてきたものである。もちろん、鳥の声は電気的に増幅されたり、移調されたりはしているが、本質的にはほとんど変更されないままに、生の声はオーケストラと美しく融合している。かくして、フィンランドの人の心と自然は美しく交歓する。

ラウタヴァーラは、もちろんシベリウスの流れのなかにある作曲家である。「極北への頒歌」は音楽としては、いわばシベリウスのロマン的なぜい肉を削ぎ取って、より近代的にしたものといえる。それによって極北の厳しさはより鋭いものとなっている。

別の関心からすると、鳥の愛好家にはこの作品で使われる鳥の種類を同定する楽しみもあろう。

[この作品は2種類のCD(いずれもフィンランドの会社)が発売されています。]

[参考]
『Einojuhani Rautavaara』
FACD 009