となりの生命誌・ウイルス❶
生きものの細胞に入って増え、細胞を壊して次に移動する存在であるウイルス。生命誕生以来、生きものにさまざまな影響を与えてきた1mmの1万分の1以下の小さなウイルスの巧みなしかけを工作で手にとりましょう。
バクテリオファージT4
バクテリオファージは、原核生物であるバクテリア、
アーキアに感染するウイルスです。
T4ファージは、大腸菌を宿主として実験室で
発見されましたが、環境や人間の腸内にもみつかり、
科学の進歩や医療や産業とも関わる、
生命のつながりの輪のひとつです。
ファージの大腸菌への感染
ファージは頭部の下にあるヒゲで宿主の大腸菌の分泌物を感じると、長い尾繊維で表面を探り当て、基盤の短い尾繊維を伸ばして着地すると、細胞壁にスパイクを差し入れ、頭を回転させてDNAを注入し感染します。ファージが大腸菌に開けた穴は速やかに閉じ、中ではファージの増殖と宿主の防御が繰り広げられます。
感染した大腸菌の中では
ファージの増殖
ファージDNAは宿主の転写酵素を借りて、宿主の活動を抑え、自分のタンパク質を合成するための酵素をつくります(❶)。次にファージをつくる部品タンパク質を合成し(❷)、新たなウイルス粒子となって脱出します。
バクテリア(宿主)の防御
制限酵素(❸)は、ファージのDNAを見つけ切断して感染を防ぐ、自然免疫の役目をします。CRISPRは、感染したファージのDNAの一部を組み込み、感染を記憶する宿主のゲノム領域(❹)で、次の感染に備える獲得免疫にあたります。隣り合うCasオペロンには、感染したファージDNAを組み込む酵素や再感染したファージDNAを分解する酵素の遺伝子が並んでいます。CRISPR領域から転写されたRNAは、分解酵素と複合体をつくり同じ配列をもつファージDNAの感染を見つけて切断します(❺)。