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生命誌のステージ
わたしの中の自然、
自然の中のわたし

自然は細胞や素粒子など、わたしたちの肉眼では見えない小さな構造をもちます。反対に、遠くにある恒星や巨大な銀河団など、望遠鏡や人工衛星でしか捉えられない大きな構造ももっています。

個体としてのわたしは、およそ37兆個の細胞でできています。一つ一つの細胞はタンパク質や脂質などの分子でできており、わたしに固有のゲノムDNAをもちます。これらの分子は、地球を循環する炭素や窒素などの元素に由来し、それぞれの原子はさらに小さな素粒子で構成されています。わたしは小さな自然の要素が積み上がって成り立っているのです。

一方、わたしはヒトという種を構成する70億の個体の一つです。ヒトは約200万種ある生物種の一つとして、種が共生する生態系の一端を担っています。生態系は地球の一部であり、地球は宇宙に数百億はあるとされる惑星の中の一つ。わたしは大きな自然の小さな一部なのです。

わたしの中の最も小さな構造である素粒子と、わたしを包む最も大きな構造である宇宙の果ては、裏表の関係にあります。わたしは巨視的にみても微視的にみても、宇宙、地球、生命という自然の階層のただ中にいるのです。

わたしの中の自然

個体 細胞 分子 地球(元素) 宇宙(素粒子)
わたしは、自然の小さな構造の
積み上げの上に成り立つ、大きな存在

自然の中のわたし

宇宙 地球 生態系(種群) 個体群(種) 個体
わたしは、自然の大きな構造の
一部をなす、小さな存在

階層を超えて生きものを考える

生きものを分子、細胞、個体(わたし)、個体群、生態系という階層で捉えると、宇宙や地球との関わりが見えてきます。

階層を超えて生きものを考える

宇宙・地球と生命のつながり

現在考えられている自然の最も小さな単位は、10-35mの、振動するひものような存在です。ここから素粒子が生じ、原子や電磁気力、質量の源になりました。すべての分子は宇宙誕生以来、常に熱運動しています。生命を考える上ではこの「ゆらぎ」が大切です。ブラウン運動を動力にするモーター分子や、DNAの不規則な動きを利用して移動する転写因子など、生命体で分子がはたらくにはゆらぎが不可欠です。生きものはゆらぎを排除せず、上手に付き合っているのです。

宇宙を漂う分子が引き合って生まれた惑星は、宇宙に数百億は存在すると考えられています。地球と似た環境の惑星も見つかっています。どこかに生命がいるとしたらどんな分子でできていて、どんな姿をしているのか。興味深い謎です。

惑星は物質やエネルギーが集まる場です。地球の生命をつくる水や炭素、窒素は、気体・液体・固体と姿を変えながら循環しています。38億年前、熱や雷の作用で有機物が蓄積し、生命体につながったと考えられますが、初期の細胞は、雲のように生成と消失をくり返す存在だったかもしれません。その中に生じた一個が、エネルギーを得て遺伝情報をのこし、現在に続く生命体になったのです。

現在の生きものは、光合成や化学合成で自ら有機物をつくります。地球の元素の流れを変え、生態系で地表を覆い、気候をも左右する存在です。一方、生きものが地殻や火山など、絶えず動き続ける地球の大きな影響下にあることに変わりはありません。

宇宙や地球とのつながりから見ると、わたしたち一人ひとりはもちろん、すべての生きものがステージに立つ「わたし」であることがわかります。たった一つしかない個として、自然の小さな一部として、どのような社会をつくり、この地球で他の生きものと共にどのように生きていくのか。これからもさまざまな切り口から考えます。

主な参考文献

『ズーム・イン・ユニバース』ケイレブ・シャーフ 著
ロン・ミラー/5Wインフォグラフィックス イラストレーション、佐藤やえ 訳
渡部潤一/川上紳一/山岸明彦/小芦雅斗 監修 みすず書房(2019)

『理科年表 2019』国立天文台編 丸善出版(2019)

Newton 2017年1月号「超ひも理論入門」P24-53 ニュートンプレス(2017)

S. Honda, K. Yamasaki, et al., Structure 12(8), p.1507-1518 (2004)

H. Abramowicz, I. Abt, et al., Physics Letters B 757, p.468-472 (2016)

季刊「生命誌」カード付録
紙工作を作ってみよう

カードでは、生命誌のステージを立体的に捉えられる紙工作がついています。
紙工作を作って、「あなたの中の自然」と「自然の中のあなた」を感じてみてください。

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2025/1/18(土)

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