RESEARCH
ART in BIOHISTORY【日本文化の中の生きもの】
やまと絵の四季
自然を数字で描くのが科学とされてきたが、生きものは言葉や図像(絵画、映像、写真など)で描き出すものでもある。絵画に描かれた生きものの形や動きから、日本文化の中での生きものの理解の様子を知ることができる。
「浜松図屏風」室町時代 16世紀。東京国立博物館蔵。
日本の絵画は古来、中国絵画の影響を色濃く受けてきましたが、そのような「唐絵(からえ)」に対して、平安時代の国風文化の中で生まれた「やまと絵」は、日本の事物を主題とし、身近な生きものや自然の風景が描かれます。
ここに挙げた「浜松図屏風」には、約20種の植物と、蝶1種、小鳥20数種、そして馬と人、という今も日本で見られる生きものが描き込まれており、画面右から春夏秋冬の移ろいと共に登場します。ヤナギ芽吹く春、スミレやタンポポも咲き集い、スズメは夏にかけて子育てをしています。ススキやハギの野を秋風が通り過ぎると、メジロは身を寄せ合い、粉雪舞う冬に入ります。遠景の海辺の松原には、地引き網で魚をとっている様子、これから狩りにでかける一行など、人々の姿が伺えます。
冬の場面(左隻左端)拡大図。コウシンバラ、ホオズキ、ヒノキの根元にヤマガラ、水を飲むホオジロの姿が見られる。
折々の自然と、人々の暮らしぶりが一体となったこの画面は、一年を通じて生きものと密接に関わる生活を幾年と繰り返してこそ表現でき、共感できる情景です。季節の変化と生命の盛衰を体感し、生きものを愛づるという感覚が、長く「四季花鳥図」という画題として描き継がれます。後の江戸時代に花開く写生画や博物学流行の素地も、そこにあったと言えましょう。
(きたじ・なおこ)