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Special Story

DNAでみた鳥の世界—分類から文化史まで

形態学者の眼とDNA分析:
山岸哲・下田親

系統的に同類の生物が、さまざまな環境に適した生理的・形態的・生態的分化を起こして多くの種に分かれ、時代とともにその程度が強くなることを「適応放散」という。鳥類の適応放散の例としては、ガラパゴス諸島のダーウィンフィンチ類やハワイ諸島のハワイミツスイ類が有名である。あまり知られてはいないが、マダガスカル島のオオハシモズ類も上記の2例に勝るとも劣らない適応放散の例として最近注目され始めている。

オオハシモズ科はマダガスカルの固有科であり、アフリカ大陸のヤブモズあるいはメガネモズの1種を祖先として、マダガスカルで14種に適応放散したと考えられている。体の大きさ、くちばしの形態が特に多様化しており、にわかには同一の科であるとは信じがたいほどだ(図)。現在の分類体系はドースト(Dorst, 1960)が頭骨の形態、脚の鱗模様、雛の羽域などを検討し、14種をまとめてオオハシモズ科としたことに根拠をおいている。

私たちは1989年より文部省科学研究費国際学術研究補助金を得て、オオハシモズ科鳥類の採食行動の生態的分離の問題に取り組んできた。この研究は、一口に言うならば、さまざまな形のくちばしをした近縁の鳥たちが、いかに森をうまく使い分けて共存しているかを示したものだ(Yamagishi & Eguchi, 1996)。

ところでじつは、この論文を書きながら、ある不安を感じていた。もしこの科が系統的に同類でないとしたら、どうなるだろう。彼らが採食行動や採食場所を違えているのは、単に系統の違いを反映しているだけで、適応放散でも何でもなくなってしまう。この不安を解消するために、ミトコンドリアDNAのシトクロームb領域の塩基配列を比較することにした。現地の動物園所蔵標本の皮虜からDNAを抽出し、PCR法を使って、一挙に13種(Oriolia bernieri だけは野外でも観察できなかったし標本もなかった)とアフリカなどにいる祖先の候補種6種を分析した。

最終結論は1カ月くらい後に出るが、今のところこの科が単系統であるという結論に矛盾する結果は得られていない。見た目の形態の違いが大きいにもかかわらず、「形態学者の分類は意外と当たっているんだな」というのが私たちの正直な印象である。

(やまぎし・さとし/京都大学理学部教授、しもだ・ちかし/大阪市立大学理学部教授)
 

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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