季刊「生命誌」96〜99号の内容を1冊の本にまとめました。
はじめに
今年の言葉は昨年の「和」からの自然な流れで「容」になりました。「和」が示す、多様な存在がそれぞれの特徴を生かして共に生きる暮らしを現実にするには、「容」が不可欠です。「容( い)れる」は「他人の主張を聞き、その意見に理のあることを認める」「自分と立場の違う人の意見に耳を傾け、よいものはよいとして認める」(新明解国語辞典)とあります。最近、日を追ってこれができない人が増えているのではないでしょう。ローマ帝国は「寛容」で築かれそれを失った時滅びたといわれます。「寛容」は辞書に「他のいい面を積極的に認めようとする」と書かれています。
「和」と「容」を社会の動きとしてとらえると、平和でありたい、寛容であろうという呼びかけになり少々固苦しくなります。でも生きものは、異質なものがそれぞれの特徴を生かしながら共にあること(和)が原則であり、常に他からの情報や物質を巧みにとり入れ(容)生かしています。つまり、「和」と「容」は、人間は生きものであることの確認なのです。
細胞はそれぞれの役割に合った受容体を持っています。ホルモンなど必要なものを受けとる受容体は細胞を外とつなぐ鍵です。私たちが社会の一員として適確に受容体をはたらかせ、行動するのは、生きものとして生きることの一つの姿です。今年も対話(トーク)、研究(リサーチ)、人(サイエンティスト・ライブラリー)という三つの形で考えました。まとめながらどの記事からも「容」という言葉から思い浮かぶ、広がりのある豊かな動きを感じとることができました。登場してくださった方のどなたもが私たちが今年考えたかった生きもののもつ「寛容」を身につけていらっしゃるからでしょう。
「容」を、生きものらしさの大事な姿ととらえて一年を過ごした私たちの気持ちを受け止めてくださいますように。そんな思いで年刊号をお届けします。
中村桂子
掲載記事
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