研究を知るチョウが食草を見分けるしくみ

判断

母チョウが感じる葉の味の正体は?
食草を判断するからだのしくみが少しずつ
わかってきました。

母チョウが前あしで確かめる植物の化合物とはなんでしょう?
産卵行動を引き起こす化合物は「産卵刺激物質」と呼ばれ、アゲハチョウの仲間でよく研究されています。

アゲハチョウの食草には、ミカン科、セリ科、クスノキ科などがあり、産卵をうながす化合物に、フラボノイド類、サイクリトール類、桂皮酸誘導体類などが知られています。多くのチョウに共通した産卵刺激物質もあれば、特定のチョウに限って使われるものもあり、そこが興味深いところです。

ナミアゲハ の産卵刺激物質
組み合わせによる産卵活性の違い

ナミアゲハ の産卵刺激物質組み合わせによる産卵活性(%)の違い出典:Ohsugi et al, Applied Entomology and Zoology 26 (1) 29-40 (1991) Adapted

ナミアゲハの産卵行動は、産卵刺激物質の組み合わせで変わります。
少数の組み合わせでも高い確率で産卵行動を起こす化合物がありますね。

ミカン属の産卵刺激物質

ミカン属の産卵刺激物質 ミカン属の産卵刺激物質

出典:Ohsugi et al, Applied Entomology and Zoology 26 (1) 29-40 (1991) Honda, Journal of Chemical Ecology 16, 325–337 (1990) Nakayama et al, Journal of Chemical Ecology 29(7):1621-34 (2003) 3種のアゲハチョウに共通した産卵刺激物質はシネフリンとスタキドリンの2種類ですが、
クロアゲハとシロオビアゲハでは4種類が共通しています。

アゲハチョウは植物の化合物の混ざり具合(種類と量)を感知して、食草を見分けます。
料理するときに食材や調味料で"味"を整える感覚によく似ていますね。

生命誌研究館「昆虫食性進化研究室」

「昆虫食性進化研究室」では、ナミアゲハの前あしふ節の感覚毛ではたらいている遺伝子群の中から、産卵刺激物質を認識する受容体の遺伝子を見つけました。ナミアゲハでは10種類の産卵刺激物質が確認されていますが、そのうちの一つであるシネフリンを認識する受容体遺伝子です。研究室では、味覚受容体の遺伝子が産卵の引き金となっていることを、チョウの行動実験で証明しました。

ろ紙に産卵刺激物質を含ませ人工的に産卵させる実験のようす

ろ紙に産卵刺激物質を含ませ
人工的に産卵させる実験のようす

前あしふ節の感覚毛にある4種類の味覚神経細胞のうち、3種類が「同時に」興奮したときにだけ産卵行動が起こることも発見しました。これによって、植物を間違えないようにしているようです。

ろ紙に産卵刺激物質を含ませ人工的に産卵させる実験のようす

ろ紙に産卵刺激物質を含ませ
人工的に産卵させる実験のようす

昆虫のからだは頭、胸、腹の3つに分かれています。
頭にある脳は、胸と腹の中で連なった神経節とつながり、全身からの感覚情報を受け取ります。この情報をもとに判断し、全身へと指令を出すのです。
しかし、脳が全ての行動を決めているわけではありません。神経節が独自に情報を処理しておこなう行動もあります。

チョウの産卵行動はどうでしょう?
研究室が調べたところ、前あしの味覚神経は、脳と胸部神経節の両方につながっていることがわかりました。
脳のどこで、どの細胞が味覚情報を処理しているのか、今まさに調べているところです。