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RESEARCH

生命惑星学へ
惑星のなりたちから生命を考える

井田 茂東京工業大学理学部地球惑星科学科

宇宙には地球以外に生きものが暮らす星があるのだろうか。誰もが抱く問いです。近年急速に進んだ観測技術とコンピュータ・シミュレーションを駆使して、生命誕生の可能性をもつ惑星を探します。

1.宇宙から生命を考える

私たちはどこから来たのだろう。誰もが考えることである。固い言葉で表すのなら生命の起源。近年、実験や海中の様子の研究から、生命体をつくる物質であるたんぱく質や核酸の素材は、海中で合成された可能性は十分あることがわかってきた。化学進化という考え方であり、これに異を唱える研究者は少ないだろう。しかし、それらの物質が細胞という形をとり、生きものとして誕生するまでの具体的な道筋は全く謎のままである。生命の起源の本丸である化学進化に直接攻め込むのは今はまだ困難だろうが、この問いの外堀のひとつを埋めることができるかもしれない考え方が惑星研究の中で生まれつつある。数年前から天文学や惑星学の分野では「生命」とか「生命居住可能性(habitability)」という言葉が飛び交う議論が盛んになってきているのだ。きっかけは、1995年以来、太陽系外の惑星(系外惑星という)の発見が爆発的といってもよいほど続いたことである。その結果、生命体が居住可能な惑星は宇宙にあまねく存在するらしいとわかってきた。地球の他にも生きものが存在する星がある。人類の世界観に関わるような話である。そのような惑星を探し、そこに棲息する生命体の存在の証拠(バイオマーカー)を天文観測で検出しようという計画も進んでいる。

2.ゴールドラッシュ

太陽は銀河系の平凡な恒星のひとつであり、太陽系のような惑星系は他にもあるはずという思いから、系外惑星探しは1940年代に始まった。だが、それから50年の間、系外惑星はひとつも発見できなかった。事態が急変したのは1995年だった。ペガサス座51番星に、中心星すれすれを周期4日の猛スピードで周回する巨大ガス惑星「ホット・ジュピター」(註1)が突如発見されたのである。惑星の公転によって中心星がふらつく現象を利用して、中心星の光のドップラー遷移(註2)を観測することで発見された。惑星の質量が大きいほど中心星のふらつきは速くなるため、巨大な惑星の方が発見されやすい。巨大惑星と言えば、太陽系では木星と土星だが、この二つの星は太陽から遠く離れた円軌道を10~30年でゆったりと回っている。後述するように理論モデルも巨大惑星はこのような軌道をとることを予測する。ところが実際は違い、ホット・ジュピターは中心星に極めて近い軌道をとっていた。中心星を速くふらつかせていたので、本来ならばホット・ジュピターの発見は容易だったはずだが、太陽系の先入観がその発見を長い年月に渡って妨げていたのだ。

ホット・ジュピターの発見によってひとたび既成概念が崩れると、次から次へと太陽系での常識とは異なる系外惑星が発見された。ホット・ジュピターと同じような惑星は多数存在した。また、彗星と見まちがってしまいそうな長楕円の軌道を描く巨大惑星(エキセントリック・プラネット)も発見された(図1)。1995年からの10年間はまさに惑星発見ラッシュであり、天文観測分野はアメリカ西部開拓時代のゴールドラッシュのような熱気に包まれた。

(図1-1) 系外惑星の多様な軌道

中心星のごく近くをわずか数日で高速周回するホット・ジュピターは、中心星からの光を受けて非常に高温である。また、楕円軌道をとるエキセントリック・プラネットは、灼熱から酷寒までの激しく目まぐるしい「四季」をくり返しながら周回している。これまでに発見された200個以上の系外惑星の大半はエキセントリック・プラネットだ。

(図1-2)  新発見の系外惑星

2005年に筆者らの観測チームは、地球質量の約70倍の超巨大コアを持つ、新しいタイプの系外惑星(HD149026b)を発見した。
惑星 HD149026bが恒星 HD149026の前を通過している想像図。軌道半径が短く、惑星の温度が高いため、惑星大気が流れ出て尾を引いている可能性がある。 ((c) Lynette Cook)

(図1-3) 巨大ガス惑星の構造

惑星 HD149026bと木星の内部構造の比較。HD149026bのコアは地球質量の70倍。木星は10倍以下。((c) Greg Laughlin)

(註1)  ホット・ジュピター

中心星に近いことで表面温度が非常に高く、木星を思わせる巨大な質量を持つことからこの名前がつけられた。英語のホット(HOT)は「熱く」と「新しい」の意味を持つことから、「灼熱の惑星」と「ホット・ニュースの惑星」の掛けことばになっていた。

(註2) ドップラー遷移

たとえば、救急車のサイレンの音が近づくときは高くなり、遠ざかるときは低い音になるドップラー効果と同じ原理で、星が近づいてくるときは光の振動数が高く、遠ざかるときは低くなる。惑星の重力をうけて中心星はふらつくので、中心星の光の振動数の周期変動を調べることで、惑星の存在が検出できる。



3.惑星系の形成モデル

多様な姿の系外惑星の発見ラッシュによって、系外惑星系は太陽系に似ているはずという既成概念は裏切られ、むしろ系外惑星系は太陽系とは違うという図式が成立した。ところが、それは再び裏切られることになる。観測が進むにつれ、太陽系巨大惑星を彷彿とさせる、半径の大きな円軌道をまわる惑星もだんだんと発見され、そのような惑星系の割合は年々増えてきた。太陽系のような惑星系が多数派かどうかはまだわからないが、ある一定の数は存在していることがはっきりしてきたのだ。

多様な系外惑星の姿が見えてきたので、惑星形成には本質的に異なる道筋があるのではないかという考えも提案された。しかし、様々な議論の結果、現在では惑星系の形成過程は本質的には同じであり、形成の最後のほうで、いくつかの枝分かれがあって結果として大きな多様性が生じるという考えが主流になりつつある。
まずは、惑星系形成の標準モデルを見て行こう(図2)。

(図2) 惑星系形成標準モデル

銀河系に浮かぶ水素・ヘリウムを主成分にしたガス雲が収縮して原始星(中心星)が生まれる時、副産物として原始惑星系円盤も生まれる。円盤の元素組成は、もとのガス雲と同じで、ほとんどが水素・ヘリウムのガスだが、そこに重元素を主成分とする塵が質量比1~2 %混ざっている(これは宇宙全体の組成を反映している)(図3)。

(図3) 観測された原始惑星系円盤

中心星を取り囲む円盤。円盤の部分は密度が高いので背景の光を通さず黒く見えている。円盤の内側には生まれたばかりの惑星が存在するかもしれない。
(NASA ハッブル宇宙望遠鏡HPより)

この塵が集まって微惑星とよばれる1~10kmの小天体になり、さらに微惑星が集積して地球型惑星(小型の岩石惑星)に成長する。

地球型惑星の質量が地球質量の10倍程度以上になると、惑星自身の強大な重力によって周囲の円盤ガスが惑星に流れ込み、固体コアのまわりに地球質量の100倍以上という大量の水素・ヘリウムのガスをまとう巨大ガス惑星ができる。木星や土星はこうして生まれたのである。中心星に近過ぎると、固体材料の量が足りず、固体惑星の質量が小さくなるため、円盤ガスは流入しない(水星、金星、地球、火星に対応)。一方、遠すぎると固体惑星の成長が遅いので円盤ガスが先に消散してしまう(天王星、海王星に対応)。したがって中心星からほどほどの距離に巨大ガス惑星ができる。

もともと円運動している円盤ガスや微惑星からできるので、惑星は円軌道を描く。しかし、円盤ガスの重力の影響で、形成後の巨大ガス惑星の軌道が中心星側にどんどんずれていく場合もあり、それがホット・ジュピターになる。一方、巨大ガス惑星同士の重力相互作用で軌道が楕円になりエキセントリック・プラネットとなることもある。系外惑星の軌道の多様性はこのように最後の仕上げの部分で生じたと、今のところ考えられている。

4.系外惑星をつくり出す

これまでに探索された太陽型恒星約3,000個のうち、実に5%以上で巨大ガス惑星が発見されている(観測精度が上がればもっとたくさん見つかるはずである)。上述の惑星系形成標準モデルに従えば、巨大ガス惑星と地球型惑星の形成は、ガスが流入するまでは同じ過程を経る。つまり、巨大ガス惑星が存在しているならば、同じ惑星系の中に地球型惑星も形成されたはずだ。とくに発見例が増えている太陽系に似た惑星系では、地球型惑星の発見が大いに期待される。

図4にわれわれのコンピュータ・シミュレーションによる系外惑星の分布予測を示す(図4)。

(図4) 系外惑星の分布予測

太陽型恒星が持つ惑星の分布予測。惑星系の10%程度は巨大ガス惑星を持つことが予測されたが、これは現在の観測値とも一致している。

観測値に基づく質量分布の原始惑星系円盤を約1,000個用意し、惑星系形成標準モデルを用いて系外惑星系をシミュレーションでつくり出し、その結果生まれた約10,000個の系外惑星を点で重ね合わせた。惑星の形成過程はいくつもの段階を経る複合的な過程なので、それぞれの素過程ごとにシミュレーションを行い、さらに微惑星の集積率や惑星の移動速度を、惑星質量や円盤密度の関数の式としてまとめ上げる作業を行っている。

素過程のシミュレーションは極力近似を排する大規模計算で行われている。微惑星の集積過程などは、基本原理はニュートンの重力方程式に従うが、非線形方程式(註3)で解は複雑であり、重力は無限遠方まで働くので全ての微惑星が相互作用をするので、重力N体計算(註4)とよばれる大変な計算が必要となる。円盤内のガスとの関わりを含めた流体・粒子系の問題になると計算はさらに難しくなる。われわれが取り組んでいる微惑星集積のシミュレーションは、普通の汎用スーパーコンピューターでは計算速度が不足するため、重力計算の専用ハードウェア(註5)を用いて計算している。われわれだけで全ての素過程の計算はできないので、世界中の最高レベルの計算結果を集めているのだが、素過程によっては不定性が大きなものもあるため、膨大な知識と高度なモデル化技術が必要とされる。
 

(註3) 非線形方程式

変数の変化が、その変数の1次以外の項にも依存する方程式を言う。線形方程式は解が得られれば、それを重ね合わせて他の解が得られるが、非線形方程式はそのような重ね合わせができず、一つ一つの解がかなり異なったふるまいをする。

(註4) 重力N体問題

たとえば微惑星が1万個あれば、重力を及ぼしあっているペアはほぼ1万×1万=1億ある。このような重力を及ぼし合っている粒子の相互作用を軌道積分していく集団のシミュレーションを重力N体計算と呼ぶ。Nは集団内の天体の個数を表す。
 

(註5) 重力計算専用ハードウェア GRAPE【GRAvity Pip E】

一番計算時間がかかるが、法則が決まっていて単純な重力計算の部分だけを集積回路で計算するようにしたもので、東京大学教養学部で開発された。集積チップをたくさん並べて計算することで高速化する。重力以外の複雑な部分はプログラムを書き換えることが多いため、普通のパソコンで計算し、円滑なシミュレーションを行う。筆者らは、世界に先駆けて微惑星から惑星へのシミュレーションにこの専用ハードウェアを使用した。



5.生命体が暮らせる惑星

もう一度、系外惑星の分布予測を見てみよう。地球型惑星は火星質量(地球質量の1/10)以上の重さならば、その重力で大気を保持できるし、適度な軌道半径をとって適温を保つことができれば、液体の水、すなわち「海」が存在できる(図5-1)。

(図5-1) 生命が暮らせる惑星の条件

(図5-2) 生命が暮らせる星の可能性

シミュレーション結果は地球のような「海」が存在する環境を持つ惑星が、多数(10%以上の確率)あることを示した。地球型惑星の観測は今はまだ難しいが、巨大ガス惑星の観測は理論と一致している。

分布予測の図中の緑の四角で囲った部分の惑星がそれに対応する。これを「生命居住可能惑星」と呼ぼう(図5-2)。シミュレーション結果は、生命居住可能惑星は太陽型恒星の10%以上に存在することを示している。地質学的な証拠から、地球では海の形成から遅くとも10億年以内には原始的な生命体が海の中で生まれたと考えられている (*) 。具体的にどのように化学進化が進んだのかはわからないが、海さえ存在できれば意外にたやすく生命体は生まれたのかもしれない。太陽型恒星のうち、少なくとも10%以上に海を持つ惑星が存在しているとすれば、この宇宙には生命があまねく存在していると考えるのが自然であろう。古来からの人類の疑問に対する、最新の科学によるひとつの答である。

惑星の軌道半径や質量が観測できれば、そこから海が存在する可能性がわかり、生命体の存在が推測できる。現状ではこのような惑星は観測が難しいが、軌道半径が小さな惑星は観測精度の向上によって発見の可能性が見えてきた。地上からの観測のみならず、2006年12月に打ち上げられたフランスのCorot宇宙望遠鏡や、2008年に打ち上げ予定の米国(NASA)のKepler宇宙望遠鏡は、この生命居住可能惑星の発見を大きな目標としている。もっと直接的に生命存在を検証するために、大型衛星望遠鏡を打ち上げて系外地球型惑星の大気のスペクトルを観測し、生命体の存在する証拠(バイオマーカー)(註6)を検出しようという考え方も出てきている。
 

(註6) バイオマーカー【Biomarker】

生物活動によって作られたと推測される物質。もし惑星大気のスペクトルからオゾンの吸収線が検出されれば、下層大気に大量の酸素があることを示し、それは光合成をする生命体のバイオマーカーとなる。また、陸上植物がいれば、葉緑体が出すスペクトルが検出されるだろう。



6.惑星環境から生命の多様性を考える

他の星に生命体が存在するかもしれないという可能性はとても魅力的なので、天文学や惑星科学の中で「生命」についての議論が急に盛んになってきている。たとえば、太陽質量の0.1~0.5倍のM型恒星と呼ばれる暗い恒星をめぐる惑星系の場合、極めて軌道半径の小さい惑星が海をもつ可能性がある。2007年4月には、そのような惑星が地上からの観測で発見されたというニュースがかけめぐった。ただし、M型恒星が発する紫外線やX線は、温度を決める(海の存在を決める)可視光や赤外線にくらべて、弱くはないことがわかっているので、中心星に近い惑星に降り注ぐ紫外線やX線の強烈さを考えると生命体は存在し得るだろうかという議論が行われている。

海の存在は原始的な生命体の存在を強く保証するのかもしれないが、陸上の大型高等生命体への進化は何に関連しているのだろう。地質学的証拠から、地球では6~7億年前に全球的な凍結と融解、生物大絶滅、酸素濃度の急上昇が時を同じくして起こったようである。そして、凍結からの回復後に生き残った海中生物が陸上に上がって急激な進化をしたらしい。

そのころの地球は、中心部分で生じた強い磁場で覆われており宇宙線が地表に届くのを遮っていた。また、微惑星の集積の最後のあたりの大衝突で生まれた月の重力は、地球の地軸の傾きを抑えて気候変動を最小限にした。これらは陸上に進出した生物には好適なことだったであろう。もし、これが生物の複雑化へのひとつの型であるならば、酸素濃度は天文観測可能であり、磁場や衛星も観測できるかもしれないので、天文観測によって系外惑星での生命体の進化段階を推定できるかもしれない。このような全惑星凍結およびそこからの回復は、ある物理的パラメータをもつ惑星の進化の中で必然的に起こるものなのか、偶然のものなのか知りたいことである。他の惑星では、同じような海の中の原始生命体からスタートしても別の進化をし、それが生命の多様性を生むかもしれない。こうなると、地球生命体は多様な個性のうちのひとつということになる。このような問題も惑星研究者の間で議論され始めている。これは確かに難しい問題だが、化学進化からの生命の起源を探るよりは難しくないのではないかとわれわれは考えるのである。

7.生命惑星学へ

生命体を切り口にした天文学の再構築も考えられる (*) 。宇宙の組成は、ビッグバンで水素とヘリウムが出来た後、恒星の中でヘリウムより重い重元素が合成され、恒星進化の最後の方で、この元素が宇宙にまき散らされ、またそれを材料にして恒星が生まれるという変化をしている。(図6)

(図6) 星が生まれるところ(国立天文台 提供)

すばる望遠鏡で撮影したオリオン星雲。この星雲ガスの中で次々と恒星が生まれている。

宇宙の平均的な組成としては重元素が徐々に増えていくのだが、星が生成される効率は銀河ごとに違うし、ひとつの銀河の中でも中心付近と外縁部では異なる。重元素は惑星の形成をコントロールするのだから、生命可能居住惑星の存在確率は銀河の領域ごと、銀河ごとに異なるということになる。

惑星を仲介にして生物学と天文学が繋がり、惑星環境を軸にして地球生命体だけにとらわれずに生命を考えていこうという新たな研究分野を、われわれは「生命惑星学」と名づけた。すでに存在する「アストロバイオロジー(天文生物学)」という漠然とした言葉にくらべ、惑星や惑星環境に焦点を絞り道筋をはっきりさせるという思いを「惑星学」という部分に込めた命名である。生命惑星学は今、胎動を開始したばかりだ。
 

井田 茂(いだ しげる)

1989年東京大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。東京大学教養学部助手、東京工業大学理学部助教授、カリフォルニア大学サンタクルーズ校客員研究員、コロラド大学ボルダー校客員研究員を経て、2006年より東京工業大学理学部地球惑星科学科教授。



 


 

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