詳細
日時
2003/06/20(金)
場所
JT生命誌研究館
出演者
西井一郎氏 (セントルイス・ワシントン大学)
内容
- ボルボックスの形態形成運動に必須なキネシン遺伝子の働き 一 多細胞のシートが折り曲がる仕組み 一
- 日時
- 2003年6月20日
- 場所
- JT生命誌研究館
- 講演者
- 西井一郎氏 (セントルイス・ワシントン大学)
- 内容
-
ボルボックス
(Volvox carteri)ボルボックスは見事な球形をし、湖沼などでぐるぐると回転しながら泳いでいる緑色藻類である。個体はたった二種類の細胞-体細胞と生殖細胞- からなり、発生や進化のモデル生物として研究がなされている。ボルボックスの発生過程では、胚の裏表が完全に逆転する「inversion」と呼ばれる現象がおこる。西井一郎氏はこの過程を多細胞生物の形態形成運動のモデルと考え、その分子機構を明らかにするためにトランスポゾンを利用した突然変異体の単離を行った。今回のセミナーでは、inversionが途中で止まる表現型を持つInvA変異体を中心に報告していただいた。
ボルボックス胚のinversion(左→右):胚の前部半球には、phialoporeと呼ばれる開口部があり、そこから外側にめくれ返り始め、約45分間でに完全に裏表が逆転する。胚の直径は約80マイクロメートル。
InvAでは、トランスポゾンが微少管モータのキネシンをコードする遺伝子に挿入されている。野生型では、このキネシンはinversionの時期特異的に発現し、細胞と細胞を繋ぐcytoplasmic bridgeと呼ばれる構造に局在していた。この構造はinversion中に細胞の中央部から一端へと移動することが知られているが、InvA変異体ではその移動が抑えられていた。過去の研究から、cytoplasmic bridge近傍には微少管が走っていることが知られていた。よって、InvAタンパク質はこの細胞間の連絡構造を微少管にそって移動させることにより、細胞のシートを折り曲げているのではないかと考えている。
InvA:inversionが途中で止まってしまう変異体。これ以上反転できない。
InvAは、ボルボックスより細胞数の少ない近縁種(プレオドリナ、ユードリナ、パンドリナ、ゴニウム)にも存在しているようだ。また、これらの生き物の祖先となったと考えられる単細胞生物のクラミドモナスにも非常によく似たホモログが存在している。このように、inversionの研究を通して、多細胞生物の形態形成運動がどのようにして単細胞生物から進化して来たかという問いにヒントが得られるのではないだろうか。
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