1993

30th ANNIVERSARY

JT生命誌研究館は、生きものの基本単位である細胞と、その中のゲノムに込められた歴史を読み解く実験研究を行い、その成果を誰もが触れられる形で美しく表現するという「科学のコンサートホール」です。30年間、研究と表現の両分野でさまざまな試みを行ってきました。
研究活動では、チョウやイモリ、クモ、オサムシなどの身近な生きものから、進化や共生のしくみを研究してきました。分子や細胞のふるまいを可視化し、ゲノムを分析し、主流であるモデル生物の研究だけでは見えてこない重要な点を明らかにしました。具体的な研究成果から、発生・進化・生態系、それぞれの分野の研究の進展を方向づけるような仕事をめざして、各研究室が試行錯誤を続けています。
表現活動では、生きもの研究をいかにして多くの人と共有し得るか、そのための表現に取り組んできました。生命科学が細分化していく中で、先端の研究成果だけを集めても、全体像は見えないままです。何億年もの時間がかかる進化や、肉眼では見えない細胞の中の遺伝子の複雑なはたらきを、正確に伝えると同時に、人々の心に届き、生きていることの本質を問いかける美しい表現に挑戦し続けています。

館長ごあいさつ

MESSAGE

創立30周年を迎えて

JT生命誌研究館 館長 永田和宏

サイエンスの現在進行形のおもしろさを、科学者だけでなく、みんなと共有したい、それがJT生命誌研究館の創立以来の願いでした。音楽を楽しむように、スポーツを楽しむように、科学を文化として楽しんでほしい。そのために、自分たちがいま展開している研究から発想し、科学的知を基盤として社会へ発信をする。そんな姿勢を貫いてきたのが、この30年の生命誌研究館の歩みであったと思います。
従来の常設展示のほかに、3年前からは企画展示がスタートしました。2021年は「食草園が誘う昆虫と植物のかけひきの妙」という展示が好評を博し、その制作過程を記録した同名の映画は、全国の映画館で上映されました。22-23年は「生きものの時間」として、従来、ともすれば見逃されがちであった生命と時間に的を絞り、「生まれるまでの時間」「生まれてからの時間」「生命誌の時間1,2」と2年、4回に分けた展示が進行中です。
生命誌研究館の4階にある食草園は、全国にも例を見ないユニークなものですが、蝶とその幼虫、そして植物との共生関係を実際に目で見て体験するのに格好の場となっています。また、蝶のレストランとしての食草園はいま注目を集め始めており、いくつかの施設でも開園されようとしています。世界的にSDGsが声高に叫ばれていますが、この食草園は、SDGs の思想を先取りし、30年も前から社会に先駆けて、その活動を続けてきたのだと言っても過言ではありません。
JT生命誌研究館は、生物多様性を大切に考え、多くの生きもののなかのヒト、自然環境のなかのヒト、そして進化という時間のなかのヒトと捉える視点を大切にしてきました。その30年の歩みを、30周年記念事業で振り返り、確認したいと願っております。

名誉館長ごあいさつ

MESSAGE

30周年で
一皮むける生命誌を

JT生命誌研究館 名誉館長 中村桂子

「生命誌の扉を拓く-科学に拠って科学を超える」出版の1990年、準備室開設の91年、大阪府高槻市の「生命誌研究館」創設の93年からの濃密な時間の流れを思います。
生きものの一つであるヒトを、ゲノムを通して見ることが可能になったことで生まれた「生命体の分析から得られる事実を基盤に置きながら人間を全体として理解する総合知」が生命誌です。岡田節人館長、大沢省三顧問に始まり、中村桂子から永田和宏館長へと続く核を中心に、館員皆の力で新しい知の構築に努めました。実験研究とそこから見えてきた事柄の美しい表現を探り、どう生きるかを考えるためのユニークな場を創りました。「研究館でしかできないこと、研究館だからできることをやろう」を合言葉に、楽しく苦労しました。
JTを初め、どれだく多くの方に支えられてきたことか。論文、ホームページ、展示、さまざまな作品に見えています。基本はオープン。すべてに開かれた知であり、場です。
「ここには、他にはない豊かな知と心を感じる空気が流れている」。最も嬉しい評価です。
皆様に心からの感謝を申し上げ、更なる展開をして参りますので、これからも生命誌と研究館に変わらぬご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

『生命誌版ピーターと狼』について

分子-細胞から種-生態系に広がる世界

JT生命誌研究館の30周年を記念して、研究館で活動する研究者をはじめゲノムを切り口に生きものの不思議に迫る研究者たちが研究館に集い、語ります。

日程
2023 10/1(日)
場所
JT生命誌研究館 周辺案内

〈分子が支える生きものの個性〉

小田 広樹 JT生命誌研究館 細胞をつなぐ分子構造と多様性
河野 暢明 慶應大学 動物の道具を人間が借りるには
PROGRAM 01

〈細胞世界に生まれる個性と関係性〉

秋山‐小田 康子 JT生命誌研究館 細胞がつくるパターンの動的変化
古澤 力 理化学研究所、東京大学 進化が生み出す微生物の多様性
PROGRAM 02

〈生きものの個性と関係性の起源〉

市橋 伯一 東京大学 進化実験が分子生態系を生み出した
PROGRAM 03

〈ゲノムにコードされる個性と関係性〉

藤原 晴彦 東京大学 メスだけが擬態するアゲハの不思議
尾崎 克久 JT生命誌研究館 アゲハチョウ: 親の好き嫌いと子の事情
吉田 聡子 奈良先端大学 ゲノムから読み解く寄生植物の適応と進化
PROGRAM 04

近年、飛躍的に発展したゲノム解析技術を駆使し、分子、細胞から進化、生態系まで、独創的な研究を展開する8名の研究者が研究館で講演と座談会を行いました。生命誌研究のさらなる展開を見据え、生命科学の新たな問いとそこへのアプローチを考える足がかりとなる会になりました。

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催しについての詳細は下記のページをご覧ください。

シンポジウム特設ページ

催しの一部を、季刊「生命誌」の記事と動画で
ご覧いただけます。

季刊「生命誌」115号 
ACADEMIA

創立30周年記念シンポジウム

I V

JT生命誌研究館のある大阪府高槻市で記念の催しを開きます。山極壽一氏の講演、及び小説家の小川洋子氏と生命誌研究館館長の永田和宏を交えた鼎談、ホワイエでのミニ展示を実施する予定です。

日程
2023 9/30(土)
場所
高槻城公園芸術文化劇場 北館 周辺案内
PROGRAM03ミニ展示

JT生命誌研究館30年のあゆみ

共催:公益財団法人 高槻市文化スポーツ振興事業団 後援:高槻市・高槻市教育委員会
PROGRAM02鼎談

科学を私たちの言葉で

山極 壽一 総合地球環境学研究所所長
小川 洋子 小説家
永田 和宏 JT生命誌研究館館長

人類の飛躍と没落
— 共感社会と言葉のもたらした世界

山極 壽一 総合地球環境学研究所所長
PROGRAM 01 講演

タイムテーブル

13:15 開場
14:00 開演
14:20 講演 山極壽一(総合地球環境学研究所所長)
「人類の飛躍と没落ー共感社会と言葉のもたらした世界」
15:20 休憩
15:35 鼎談 山極壽一(総合地球環境学研究所所長)
× 小川洋子(小説家) × 永田和宏(JT生命誌研究館館長)
「科学を私たちの言葉で」
16:50 閉幕

当日は永田館長のご挨拶に続いて、山極壽一先生が講演を行い、共感力がヒトを育んできた歴史をたどりました。講演の後は、永田館長がホストをつとめ、山極先生に加えて小説家の小川洋子さんをお迎えした鼎談を行いました。
言葉によって生まれた時間と物語から見る人間について語り合い、改めて、生きものとしての人間を見つめ、研究館の次への一歩を考える場となりました。

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催しの一部を、季刊「生命誌」の記事と動画で
ご覧いただけます。

季刊「生命誌」115号 
SYMPOSIUM

JT生命誌研究館創立30周年の集い

これまでJT生命誌研究館を支えてくださった皆さまに感謝を伝える催しです。中村名誉館長らによる『生命誌版 ピーターと狼』の音楽と語りで、生きものの世界を楽しむという生命誌の基本を改めて感じてください。さらに永田館長が、山極寿一先生をお迎えしての対談を行います。細胞生物学と霊長類のフィールド研究という、異なる分野から見た科学の楽しさを語り合います。これまで支えてくださった皆さまと、これからの研究館の役割を共に考える皆さま、多くの方のご参加をお待ちしています。

日程
2023 5/27(土)
場所
浜離宮朝日ホール 周辺案内

生命誌版『ピーターと狼』と
共に歩んだ30年

中村 桂子 JT生命誌研究館名誉館長 プリムローズ・マジック(ピアノ演奏)
PROGRAM 01 お話

科学のおもしろさをみんなと共有したい
—答えより問いを求めて—

山極壽一 総合地球環境学研究所所長
永田和宏 JT生命誌研究館館長
PROGRAM 02 対談

タイムテーブル

13:15 受付開始
14:00 開演
14:15 お話 中村桂子
「生命誌版 『ピーターと狼』 と共に歩んだ30年」
15:25 休憩
15:40 研究活動紹介映像 「生きもの愛づる人々 III
16:05 対談 山極壽一 × 永田和宏 「科学のおもしろさを
みんなと共有したい—答えより問いを求めて—」
17:25 閉幕

当日の館長のごあいさつ

JT生命誌研究館は大阪府高槻市にある小さな施設ですが、本日の催しに多くの方に来ていただき嬉しく思っております。

当館は1993年に、初代館長の岡田節人先生と中村桂子先生が創立しました。2002年に中村先生が2代目の館長に就き、2020年に私が3代目の館長を仰せつかりました。30年もの間、皆さんに支えられて続けることができました。生命誌の基本の理念は、人間を特別扱いするのではなく、地球にいる全ての生きものの中の一つとして捉え、その中でどう生きていくかを探っていこうというものです。地球上の全ての生物がそれぞれ38億年の歴史を背負っています。その膨大な時間を経て、今ここに生命としてある多様な存在の一つとして人間を捉えるということです。これは今叫ばれているSDGsの考え方と根本でつながっており、当館は時代を30年も先駆けて、SDGsのアイデアを出し実践してきた研究館だと自負しています。

我々は難しいことをしているわけではありません。ユニークな研究を行う四つの研究室と、研究を表現する「表現セクター」からなります。「科学のコンサートホール」をコンセプトに、研究に基づいていかにサイエンスを表現し、皆で一緒に楽しめるかをミッションにしています。英語では”Biohistory Research Hall”。普通、「研究所」は英訳すると”Institute”になるのですが、ここでは科学を演奏する「研究館」という意味を込めて”Hall”としています。これは音楽やスポーツと同じように、科学を楽しく、心に届くものにしたいという願いが込められています。本日も、サイエンスを皆さんと楽しみたいと思っています。

2020年に私が館長を仰せつかってからはもう一つ、研究館を「『問い』を発掘する場」として、一緒に考えていきたいと思っています。今、若い学生さんなどを中心に、自ら問いを発することが非常に少なくなっていると感じます。研究館に来たら、見て、学ぶだけに止まらず、その上で問いを見つけること。自ら問いを発することの大切さを、声を大にして訴えていきたいと思っています。

JT生命誌研究館の館長室の窓から見える場所に、「Ω食草園」という展示があります。「食草」という言葉が入っていますが、人が食べる草ではなく、チョウの幼虫が食べる草を植えた庭です。チョウの幼虫は限られた種類の植物しか食べられません。そこで母チョウが前脚で葉をたたいて味見をして、これなら自分の子どもが食べられるだろうという葉を判断して卵を産みます。この行動のしくみを遺伝子レベルで解明するのが、当館の研究テーマの一つです。食草園は4メートル四方ほどの小さな庭ですが、たくさんのチョウが訪れます。今、この庭を全国の市町村に展開したいと考えています。各地の食草園で、この植物にこのチョウが卵を産むのだと実際に見て知ることは、とてもいい自然観察になると思っておりますし、SDGsの本質はこういうところにあるのではないかと思うのです。サイエンスの面白さを社会と共有する、これも一つの研究館のミッションと捉えています。

さらに昨年、『食草園が誘う昆虫と植物のかけひきの妙』という映画を制作しました。当館のスタッフ村田英克が監督した手作りの映画ですが、今全国の映画館を巡回しております。われわれの身近な自然の中に、いかにたくさんの昆虫と植物の共生関係があるかを実感できるものになっています。こうした活動を通して、人間だけが生きているのではないこと、自然の中でどのように生きていくのが豊かさなのかを考えていきたいと思っております。

本日は、最後まで十分お楽しみください。

2023年5月27日
JT生命誌研究館館長 永田和宏

永田和宏館長の挨拶に続き、中村桂子名誉館長が研究館の30年を振り返りました。研究館が大切にしてきたことを改めてお伝えし、講演の後は生命誌版『ピーターと狼』の演奏を行いました。続いて永田和宏館長が山極壽一先生と対談を行い、科学の中で問いを抱くことの大切さや、科学の発展と文化との関わりになどついて語り合いました。

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会場で研究活動の紹介映像「生きもの愛づる人々 III」を上映しました。

催しの一部を、季刊「生命誌」の記事と動画で
ご覧いただけます。

季刊「生命誌」114号 
SPECIAL STORY

展示・映像・講演

JT生命誌研究館のこれまでの試みを伝える出張展示と、研究員によるレクチャーを行います。

日程
2023 5/30(火)
6/11(日)
場所
たばこと塩の博物館 周辺案内

表現を通して
生きものを考えるセクターより

・ 生命誌と出会う ・ 生命誌を映す -映像上映- ・ 紙工作で生命誌にふれる ・ 植物を育てる 蝶が訪れる -食草園-
PROGRAM 01 創立30周年記念展示

4人の研究員が語る進化・発生・生態系

6/3(土) 蘇 智慧(系統進化研究室) 6/4(日) 尾崎克久(昆虫食性進化研究室) 6/10(土) 小田広樹(細胞・発生・進化研究室) 6/11(日) 橋本主税(形態形成研究室)
PROGRAM 02 研究員レクチャー