更新情報

21.02.20

[生命誌クモラボ最新情報] 細胞の多様な状態を一気に大量に解析する技術を取り入れました!

昨年発表した研究成果をさらに発展すべく、新たな研究手法を取り入れましたのでご紹介します。

質問を2月20日(土)、21日(日)に限り受け付けています。このページの最後の「ご質問のある方へ」をご覧ください。

以下に映像の中の一部を抜き出し、概要を説明しています(一部映像の内容を補足)。


この写真の機器が今回のお話の中心です。非常にシンプルな構造の機械になっています。U字に見えているところに溶液が流れる流路があって、その流路の底に小さな穴が22万個配置しています。細胞を希釈して流路に流し込んで一つの穴にひとつの細胞が入るようにして実験を行います。技術の原理の説明の前に、私たちの研究の目的について簡単に説明します。
 私たちはオオヒメグモをモデルとして節足動物の卵の中でからだのパターンがどのような仕組みで作られるかを研究しています。クモに注目することで節足動物の祖先の仕組みが見えてくるのではないかと考えています。



この写真では、産卵後39時間から3時間ずつ51時間までの卵を染色して3つの遺伝子が読み出される様子を可視化しています。産卵後45時間あたりからしましまのパターンが見えてきているのが分かるかと思います。このパターンは将来のからだの節に対応します。私たちの「問い」は、ひとつひとつの細胞の立場になって考えてみないとちょっと分かりにくいかもしれません。個々の細胞から見れば全体のパターンを見ることができないので、自分がどう振る舞ったらいいのか、自分がどのような状態を作ったらよいのかは自分の周りからの限られた情報だけで判断しないといけないはずです。それはそんなに簡単なことなのだろうか?
 ここで示している卵の染色は3つの遺伝子の状態を可視化しています。新しい技術ではゲノム上のすべての遺伝子(約20,000個)の状態を一気に解析できるようになっています。組織の中の細胞の状態をもっと詳しく知ればその問いに対する手がかりが何か得られるのではないかと考えています。


技術の名称は、シングルセルRNAシーケンシングです。多数の細胞でできた組織を一つ一つの細胞にバラバラにして、先程の機械の流路に希釈して流し込みます。すると、流路の底にある穴に細胞が沈み、細胞が個別化されます。多くの穴は空のままですが、細胞が入った穴はひとつだけの細胞が入っています。そこへ、特殊な磁性ビーズを導入します。ビーズにはたくさんの短いDNAが付いていて、細胞を溶かして出たmRNAがそのDNAに結合します。そのmRNAを鋳型としてDNAが合成されて、たくさんのDNAが付いたビーズができます。最初の短いDNAには特別な細工がしてあります。最も重要なのは、黄色で示した配列で、ビーズごとに異なる配列が付いていることです。配列解析(シーケンシング)した後から細胞を特定できるようにするためです。もうひとつの細工はビーズに付いているDNAごとに異なる配列が付いていることです。この細工の意味は少し難しいですが、配列解析に持って行く過程でDNAを増幅することになるのですが、そのときDNAごとに増え方が違った場合に不正確に数を数えてしまうことを防止する意味があります。つまり、各細胞の中に存在するRNA分子の数を正確に数えることに役立ちます。mRNAから転換されたDNAが張り付いたビーズは磁石を使って多数の穴からまとめて一本のチューブに回収できます。このビーズについたDNAを一気に大量に配列解析をしてデータを取得します。得られてくるデータは、細胞ごとにゲノム上の全遺伝子にわたってそれぞれ何個のmRNAが存在したかという数のデータになります。そのデータを細胞間で比較することによって細胞の状態の類似度を知ることができます。


この図はクモの卵の細胞ではなく、デモ実験で行ったショウジョウバエの培養細胞を使ったシングルセルRNAシーケンシングの解析結果です。ひとつの点がひとつの細胞を表しています。細胞の状態の相対的類似度を2次元空間にマップして表現しています。意図せず、意味有りげなパターンが得られました。使った培養細胞は特に何も処置をしていません。異なる状態が環状につながって見えたことから、細胞周期による細胞の状態の変化を反映しているのではないかと推測しています。シングルセルRNAシーケンシングのパワーを感じたところです。
 この技術の最大の利点は、組織の中のすべての細胞の状態をゲノムをベースに(先入観なく)解析できることです。オオヒメグモの卵の中でしましまのパターンが形成される過程でどのような細胞の状態があるのかをこの技術で知ることができると考えています。上述の私たちの問いへの強力な手がかりが得られるのではないかと期待しています。この技術を使ったオオヒメグモでの実験はまだ始まったばかりです。結果が得られたらまたお伝えしたいと思います。
 

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研究員レクチャー映像配信「数学や物理学の視点から見る生物の形作り」藤原基洋
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