1993

名誉館長より

MESSAGE

『ピーターと狼』と
生命誌

JT生命誌研究館 名誉館長 中村桂子

今、「生命誌絵巻」への関心が高まっているのを感じます。多様な生きものが語る歴史物語を読み解き、その中にいる人間の生き方を考えることの大切さを、教育、芸術、産業、政治などあらゆる分野の方が感じ始めているのだと思います。
ウイルス・パンデミック、異常気象、戦争など、人間を生きものとして見ていない社会は混乱状態にあります。ここから抜け出すには科学・科学技術に期待するしかないと考える人がいる一方、一律の進歩・拡大を求める現代社会の価値観の変更を求める声も少なくありません。それが、「生命誌的世界観」への共感になり、それを直観できるように美しく表現された「生命誌絵巻」が役に立っているのです。
「絵巻」と並んで、私の30年間を支えるもう一つの表現に「ピーターと狼生命誌版」があります。生命誌の基本は、時間と関係であり「絵巻」にはもちろんそれが入っていますが、時間の表現と言えば音楽であり、どうしてもそれを試みたかったのです。常に演奏しているわけにいかないのが残念ですが、今回は是非お聴きいただきたく存じます。
一律な開発で一様な進歩を求める競争社会ではなく、内発的な発展( development )によりそれぞれが特徴ある進化を遂げ、多様な存在が複雑系をつくる社会でありたい。それを支える知として生命誌が育つようにと願います。40億年続いた生態系の知恵を活かして。
これからの生命誌研究館は、これまでの実績を踏まえてもう一歩踏み出し、誰もが思い切り生きることのできる社会を支える総合知を確実なものにしていく役割があります。他のどこにもない、今の社会が必要とする場として。
さまざまな分野の多くの方が活動に参加して下さいますことを心からお願いいたします。

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