中日新聞(7月26日 時のおもり)本文は下にあります。>
 20日、東京都心は39.5度、甲府で39.9度、千葉で37.8度と、観測史上最高気温を記録した。北から乾燥した高温の空気が流れ込む“フェーン現象”とのことで、この日の暑さはそれで説明できるのだろう。しかし、この日に限らず、今年の夏は異常な暑さだと思う。
 30度を超す日を真夏日と呼ぶことを知ったのは大人になってからだが、子どものころの夏休みの日記に、30度以上という温度を書いた日はそれほど多くなかったように記憶している。それが、東京都心では20日の時点で真夏日が26日、大阪は32日と新聞にあった(私の生活の場の話で申し訳ないが、中部地方もそれほど違わないと思う)。もう1つデータをあげるなら、7月のこれまでの平均気温は、平年より2.6度高いそうだ。
 この異常な暑さの原因は、カラ梅雨ともつながっており、さらには、新潟や福井での記録的な豪雨とも関連があるという分析を見ると、そうだろうなと思う。ところで、平均気温が2.6度高いという数字は、明確な測定値であり、事実である。それに対して誰もが、それはなぜ?原因は何?と問いたくなるだろう。人間は、事柄を因果関係で理解し、それができるからこそ、悪い結果をもたらすような原因をとり除くことができるのである。
 しかし、この異常と思える気象は難物だ。確かに、今年は太平洋高気圧の勢力が強く、梅雨前線を北に押し上げたという事実は知らされているし、さらには赤道の日付変更線付近の海水温がこの20年間の平均より1〜2度高いことがこの暑さと関係があるだろうという解析もあるようだ。でもそこの海水温が高いのはなぜ?と聞きたくなる。風が吹けば桶屋が儲かるという話があるが、ここでは、なぜ、風が吹いたのかを知りたいわけである。
 この問いの中には、近年心配されている地球温暖化という問題がある。地球は複雑で、決して一定の状態で存在するものではない。気象も複雑で、四季の変化といえどもまったく同じことのくり返しではない。そして残念なことに、そこにはあまりにもたくさんの因子が関わりすぎており、現在の「科学」では十分な理解はできていない。従って、今年の暑さの原因の特定はできないのである。ということは、この原因は、人間のエネルギーの使い過ぎなのではないか、二酸化炭素の排出をこのような形で続けていてよいのだろうかという問いを出してみても何の答えも得られないことになる。
 一方で、因果関係のはっきりした現象もある。あまりの暑さに、ビアガーデンに寄る人が昨年に比べて倍増とか、タクシーの利用者が増えたとか、エアコンが品切れになったとか。生ごみのにおいが気になる主婦が生ごみ処理機を買っているという新聞記事もあり、とにかく景気にプラス効果が出ているようだ。プールへ行く人が増えるだろうからと目薬会社の株が高値とあるとなるほどと思う。ここでの因果関係はわかりやすいので、猛暑も悪くないじゃありませんかとなるのである。
 しかしこんなことでよいのだろうか。複雑なことはわからないからと言って、眼の前のわかりやすい効果だけを見て判断し、行動を決めている間に、事態は取り返しのつかないところに行く危険がある。今私たちはそんなところにいるのではないだろうか。科学的ということを正しいの代名詞のように使っている限り、複雑なことに対処はできない。景気が大切なことはわかるが、それだけでエネルギー多消費型の社会の見直しよりは消費の刺激の方を優先する生活を続け、この暮らし方を地球全体に広げていったら・・・。水温を徐々に上げていっても中にいるカエルはそれに気づかず、ついに熱湯になって死んだという話を思い出す。私の生きものとしての感覚は、お湯の温度を感じており、とび出したいのだが。
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