論文
Sawa Iwasaki‑Yokozawa, Ryota Nanjo, Yasuko Akiyama‑Oda and Hiroki Oda
Lineage‑specific, fast‑evolving GATA‑like gene regulates zygotic gene activation to promote endoderm specification and pattern formation in the Theridiidae spider
BMC Biology 20: 233
解説
節足動物はからだの軸に沿って反復構造をもつ、最も種が多様な動物グループです。からだの基本構造は卵の中で出来上がりますが、産まれた卵から節足動物としての基本的なからだの形ができるまでの過程は非常に様々です。しかし、ショウジョウバエと一部の昆虫以外で、最初期のからだ作りの仕組みを分子レベルで解析された例はほとんどありませんでした。
本研究では、オオヒメグモ胚の最も初期のからだ作りの過程において、内胚葉形成やパターン形成に働く遺伝子群の活性化を制御する遺伝子を同定することに成功しました。この遺伝子は、機能抑制した際の表現型”として、オオヒメグモの初期胚に特徴的に形成される円盤状の細胞シートの縁ができないことから、フチナシ(fuchi nashi )と命名しました。フチナシ遺伝子がコードするタンパク質は、多細胞動物に広く存在するGATA因子と呼ばれる転写因子に類似していますが、典型的な(祖先的な)GATA遺伝子から遺伝子重複を経てクモ系統で特異的に派生し、高速に進化してきた遺伝子であることがわかりました。このことから、フチナシ遺伝子が関わる初期胚の仕組みは節足動物鋏角類の進化の過程で比較的最近に築かれた仕組みであると考えられました。さらに、フチナシよって発現が制御される遺伝子の産物には機能未知のタンパク質も多く含まれることがわかってきおり、クモの初期胚の仕組みの全貌解明にはさらなる研究が必要となっています。まとめると、今回の発見は遺伝子の新たな進化とともに動物の体づくりの過程が多様化してきたことを示唆しており、節足動物の初期胚のからだ作りの仕組みがなぜ多様なのかを理解することにつながる発見です。
また、本研究はオオヒメグモのモデル生物としての価値や利用性をアピールできる研究内容となっています。オオヒメグモの初期胚において局所に発現する遺伝子をゲノムワイドに同定し、機能スクリーニングによって重要遺伝子を同定しました。既存のモデル生物(例えば、ショウジョウバエ)の知識に頼らずに動物系統特異的な新規遺伝子の同定に至ったことは多様性研究の今後の展開に重要な意味を持ちます。オオヒメグモで蓄積したゲノム関連リソースを活用して行われた研究であることも、ゲノムプロジェクト先導型の研究を後押しするものです。本研究ではオオヒメグモゲノムに紐づいた大量のデータが創出されており、公共のデータベースに登録するとともに、独自のデータベースで検索、閲覧、利用が可能となっております。
本研究の筆頭著者は前奨励研究員の岩﨑-横沢佐和博士であり、彼女の生命誌研究館での5年間の研究(2014-2019)がこの論文に結実しています。第二著者の南條稜汰は過去小田ラボ在籍(2019-2021)の大学院生であり、彼の修士論文研究の成果がこの論文に大きく貢献しました。
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