論文

Motohiro Fujiwara, Yasuko Akiyama-Oda, and Hiroki Oda

Virtual spherical-shaped multicellular platform for simulating the morphogenetic processes of spider-like body axis formation

Frontiers in Cell and Developmental Biology 10:932814. doi: 10.3389/fcell.2022.932814

解説

細胞の動きを模倣する数理モデルを構築し、コンピュータ上でクモ胚の形状変化を再現できました

多細胞動物のからだの基本構造が作られる場の胚の形成過程は種によって多様です。その多様性は、クモを含む節足動物のグループの体軸の分節化に至る初期胚の過程でも観察されています。昆虫やクモのモデル種(ショウジョウバエやオオヒメグモなど)を用いたこれまでの発生学の研究により、節足動物の胚における軸形成や分節化を制御する多様な仕組みの具体例が示されています。しかし、実際の生物を用いる研究では、どうしても進化という長い時間の制約があり、初期胚の過程の多様性が進化の過程でどのように生じたかについて理解するのに限界があります。その解決策の1つとして、数理モデルを用いて多細胞体の発生と進化をコンピュータ上で再現して解析することで、生物種ごとの制約や時間の制約を緩和し進化の過程を捉えることができます。
 本研究では、オオヒメグモ胚をひとつのモデルとして、動物の胚の形成過程の様子をコンピュータ上で模倣できる新規の仮想多細胞体プラットフォームを構築しました。動物胚の形状が変化する過程を、細胞機能に対応づけられるパラメータのみを使用して再現することを可能としました。具体的には、球表面に仮想細胞を配置させて、細胞分裂や細胞の再配置に加えて、細胞骨格や細胞収縮の働きに由来する物理的な力と、細胞の極性(向き)と関係づけられた細胞間の接着を導入した多細胞体モデル(Cell vertex model)を構築し、細胞分化に対応してパラメータを調節することで、オオヒメグモ胚に見られる球状胚から胚盤へ、そして胚帯への形状変化を再現できました。さらに、本プラットフォームに遺伝子ネットワークを搭載して、変形中の胚での遺伝子発現パターンの動態も解析できることも示しました。この研究は、クモを含む節足動物の形態の進化をコンピュータ上で再現する試みの第一歩となる成果です。クモ胚の実験研究を起点として、クモ胚をモデルとした新しい方向性の理論研究としての発展が期待されます。

オオヒメグモの胚発生(左)と数理モデルによる胚発生(右)


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