論文
Tomohiro Haruta, Rahul Warrior, Shigenobu Yonemura and Hiroki Oda (2010)
The proximal half of the Drosophila E-cadherin extracellular region is dispensable for many cadherin-dependent events but required for ventral furrow formation.
Genes to Cells 15, 193-208.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1365-2443.2010.01389.x
解説
ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろう!ラボ(細胞・発生・進化研究室)の論文が国際学術専門誌Genes to Cellsの2010年3月号に掲載されました。この研究はショウジョウバエのカドヘリンの構造と機能に関する遺伝学的解析で、当研究室に所属する大阪大学理学研究科の大学院生春田知洋が中心になって行ってきた研究です。
カドヘリンは多細胞動物に広く保存された細胞間接着分子ですが、細胞外領域の構造には動物グループによって大きな違いがあることが知られています。とりわけ、脊椎動物とホヤを含むグループと、ナメクジウオを除くその他の無脊椎動物との間の違いは、脊椎動物への進化を考える上で注目に値します。後者のグループのカドヘリンには、前者のグループのカドヘリンには存在しない特徴的な領域が、細胞膜に近接する細胞外領域に存在します。この領域は、脊椎動物への進化の過程で失われたと考えられ、原始的カドヘリン領域と呼ばれています。ショウジョウバエのカドヘリンにもこの原始的カドヘリン領域は存在しています。
今回の研究で春田は、原始的カドヘリン領域を人為的に欠失させても、ショウジョウバエのカドヘリンが細胞間接着分子として多くの形態形成で十分に機能できることを明らかにしました。しかし、興味深いことに、その改変カドヘリン分子は中胚葉細胞シートの折れ曲がり運動では十分な機能を果たすことができませんでした。この結果は、カドヘリンの機能と上皮細胞シートの折れ曲がり運動を関連づける最初の遺伝学的証拠です。
今回の研究成果は、カドヘリンの基本機能を失わずにカドヘリンの構造が大きく変わりうることを示唆しました。また同時に、無脊椎動物のカドヘリンに広く保存された原始的カドヘリン領域が、ある限られた形態形成に不可欠な機能を果たしている可能性を示しました。
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