論文
Yasuko Akiyama-Oda and Hiroki Oda (2010)
Cell migration that orients the dorsoventral axis is coordinated with anteroposterior patterning mediated by Hedgehog signaling in the early spider embryo.
Development 137, 1263-1273
解説
ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろう!ラボ(細胞・発生・進化研究室)の論文が国際学術専門誌Developmentの2010年4月15日号オンライン版に掲載されました。当研究室は、オオヒメグモ(節足動物門鋏角類)を新しいモデル生物として開拓してきました。これまでの研究で、オオヒメグモ胚にはある特定の時期に極領域から赤道領域に移動する細胞集団が存在し(写真で赤く染まっている部分)、その細胞から周りの細胞に伝達されるシグナルが背腹軸の向きを決めるために重要な役割を果たしていることが明らかになっていました(Akiyama-Oda and Oda, 2003, 2006)。しかし、その細胞集団が何を目印に移動を開始し、どうして目的の位置で止まることができるのかは全くわかっていませんでした。今回の論文には、その問題に答えるためのヒントが示されています。
今回の研究の端緒は3年前に遡ります。いろいろな遺伝子の機能を手当たり次第調べている中で、ヘッジホッグと呼ばれるシグナル分子の受容体の機能を抑制すると極領域からの細胞移動が妨げられることをたまたま発見しました。その後、ヘッジホッグシグナルに関わる別の遺伝子の機能を抑制すると、細胞が目的の位置で止まらずに動き続けることがわかりました。不思議に思い、さらに数多くの実験を行った結果、ひとつの結論にたどり着きました。それは、ヘッジホッグが関わるシグナルネットワークがクモ胚の前後パターンの形成に主要な役割を果たしており、背腹軸の向きを決める細胞集団はそのパターン形成の進行を何らかの仕組みで感知し、挙動しているらしいことです。クモでは、同じ節足動物でも教科書によく示されているショウジョウバエとは全く異なる仕組みで体軸が形成されていることが明らかになりました。
細胞の移動とパターンの形成がどのような仕組みで協調し、連動するのか? 既存のモデル生物でも十分に答えられていない問題です。今後、このような問題の解明を目指して、オオヒメグモを用いた実験技術手法を高めていきたいと考えています。
関連論文
Hiroki Oda, Sawa Iwasaki-Yokozawa, Toshiya Usui and Yasuko Akiyama-Oda. Experimental duplication of bilaterian body axes in spider embryos: Holm’s organizer and self-regulation of embryonic fields. Development Genes and Evolution. 2019年4月10日オンライン公開(オープンアクセス)
Akiyama-Oda, Y. and Oda, H. (2006) Axis specification in the spider embryo: dpp is required for radial-to-bilateral symmetry transformation and sog for ventral patterning. Development 133, 2347-2357
Akiyama-Oda, Y. and Oda, H. (2003) Early patterning of the spider embryo: A cluster of mesenchymal cells at the cumulus produces Dpp signals received by germ disc epithelial cells. Development 130, 1735-1747
Oda, H., and Akiyama-Oda, Y. (2008) Differing strategies for forming the arthropod body plan: Lessons from Dpp, Sog and Delta in the fly Drosophila and spider Achaearanea. Development, Growth and Differentiation 50, 203-214
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