論文
Mizuki Sasaki, Yasuko Akiyama-Oda, and Hiroki Oda(2017)
Evolutionary origin of type IV classical cadherins in arthropods
BMC Evolutionary Biology, Volume 17, Issue 142, June
DOI: 10.1186/s12862-017-0991-2
https://bmcevolbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12862-017-0991-2
解説
昆虫のE-カドヘリンは、脊椎動物のEカドヘリンとは細胞外構造に大きな違いがある分子ですが(Nishiguchi et al., 2016)、共通の祖先分子に由来する、形態形成に重要な細胞間接着分子です。本論文では、非昆虫節足動物のうち、鋏角類5種、多足類1種、甲殻類6種のゲノムを解析し、それぞれのゲノムに存在するクラシカルカドヘリン遺伝子の種類と構造を同定するとともに、それらを詳細に比較し、分析しました。E-カドヘリンはクラシカルカドヘリンの一種ですが、昆虫型E-カドヘリンは初期節足動物が多様化した後に、祖先型のクラシカルカドヘリンから段階的なスリム化を経て進化してきたことが示唆されました。今回の発見で特に興味深いのは、解析した甲殻類のうち、鰓脚(ミジンコ)類とケンミジンコ類で昆虫型のE-カドヘリンが確認されたにも関わらず、軟甲類においては祖先型カドヘリンと昆虫型E-カドヘリンの中間的特徴を示すカドヘリンのみが見つかったことです。この発見は汎甲殻類(昆虫類+甲殻類)の中で、ミジンコやアルテミアなどの鰓脚類がフナムシやヨコエビなどの軟甲類よりも昆虫類に系統的に近いグループである可能性を示唆します。これまでに脊索動物門においても、脊椎/尾索動物と頭索動物の間でクラシカルカドヘリンの細胞外領域の構造にはっきりとした違いがあることが分かっています (Oda et al., 2002)。今回の節足動物門での発見によって、クラシカルカドヘリンの構造進化と動物の系統発生との関係を追究することの重要性がさらに高まったと言えます。
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