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22.12.15

[報告&研究者インタビュー] 生命誌 研究者セミナーの開催 (1/20)「発生ゲノミクスで探る脊椎動物の進化過程」安岡有理博士



  2023年1月20日、安岡有理さん(理化学研究所生命医科学研究センター)をJT生命誌研究館にお迎えしてセミナーを行いました(外部からも多くの方にオンラインでご参加いただきました)。安岡さんの研究の魅力は、脊椎動物に主軸を置きながら、進化を遡るために、ナメクジウオやイソギンチャク、サンゴなどの多様な無脊椎動物を使った実験研究に果敢に挑んできたこと、加えて、ゲノムに基づいた先進的解析を実践してきたこと、にあると思います。きっと安岡さんにしか見えていない世界があるのではないか、そんな思いで安岡さんにセミナーをお願いしました。

  お話は、「シュペーマン・オルガナイザーの進化」、「脊索の進化」、「遺伝子発現のゆらぎと進化の方向」の3つパートからなり、最初の2つのパートでは、脊椎動物から無脊椎動物へ遡るようにして行なった、動物胚を使った遺伝子実験の結果から動物の体づくりの進化を論じました。特に、サンゴ胚でBrachyury遺伝子の機能阻害を行なった実験の結果から、中胚葉の外胚葉起源の可能性を論じたところは、結果を出したものが独自の学説を主張できる学問の面白さだと感じました。最後のパートは時間が足りなくあまりお聞きすることができませんでしたが、進行中の研究ということで今後の展開が楽しみです。

  セミナー後、安岡さんから研究の裏話や様々な体験、研究への思いを聞かせていただきました。その一部を以下にインタビュー形式でご紹介します。セミナー中にオンラインでいただいたご質問に対しても丁寧な補足説明を頂いています。<セミナー後記(安岡)>をご覧ください。
 

 質問1)これまでの自身の研究活動の中で、最も面白いと感じた(または、最も驚いた)瞬間を教えてください。

サンゴの遺伝子機能解析に世界で初めて成功したときにはとても興奮しました。やはり世界初というのは格別な思いがあります。また、初めてイソギンチャクのLim1という遺伝子のクローニングをしたときに、「今世界でこの遺伝子を手元にもって調べているのは自分だけ」、という高揚感があったことを今でもよく覚えています。
 

 質問2)今の研究を志したきっかけがあったら教えてください。

古くは幼少期の恐竜好きに端を発しています。小学校や中学校の文集には「将来古生物学者になる」と書いていたのですが、それがいつしか実験の楽しさを覚え、遺伝子にも興味をもつうち、進化発生学研究を志すようになりました。生命の精巧さと進化の不思議に興味を持ち続けた結果、今では化石ではなくゲノムを発掘するようになった、という気分でしょうか。。
 

 質問3)今後、どんな研究(どんな発見)をしたいですか?

進化の方向性やゲノムの働き方について、実験事実に基づいた自分なりの進化理論を打ち立てたいです。究極的には、遺伝子の働きや体の形づくり、さらにその進化の道筋までゲノム配列から予測することができたら、生命進化を真に理解できたことになると思います。一つ一つの遺伝子の働きにもフォーカスを当てながら、「木も森も見る」ような研究をしたいです。
 

<セミナー後記(安岡)>

 セミナーをご視聴いただいた高校生物の先生から、「脊椎動物の脊索は成体になると消えてなくなると教えているが、それは間違っているのか?」といった趣旨の質問を受けましたが、当日は明確にお答えできなかったと思い、ここに改めてご返答いたします。答えは「半分正解、半分不正解」です。というのも、棒状の支持組織としての脊索は、確かにヤツメウナギやヌタウナギを除くほとんどの脊椎動物(顎口類)の成体では脊椎骨に置き換わって消失してしまいます。しかしながら、その過程で脊索は分節状に区切れて脊椎骨の間に残り、椎間板髄核へと変化して成体になっても存在し続けます。この椎間板髄核がクッション材となることで脊椎骨が体を支えることができるわけですので、生涯にわたって支持組織として働いていると言ってもいいかもしれません。脊索と椎間板髄核との間の共通性と多様性は、今後進化発生学的また医学的な面でも面白い分野になると思います。


安岡さんの主な論文: research map
1) Yuuri Yasuoka, Masaaki Kobayashi, Daisuke Kurokawa, Koji Akasaka, Hidetoshi Saiga, Masanori Taira; Evolutionary origins of blastoporal expression and organizer activity of the vertebrate gastrula organizer gene lhx1 and its ancient metazoan paralog lhx3. Development 15 June 2009; 136 (12): 2005–2014. doi: https://doi.org/10.1242/dev.028530
2) Yasuoka, Y., Suzuki, Y., Takahashi, S. et al. Occupancy of tissue-specific cis-regulatory modules by Otx2 and TLE/Groucho for embryonic head specification. Nat Commun 5, 4322 (2014). https://doi.org/10.1038/ncomms5322
3) 1. Yasuoka Y, Shinzato C, Satoh N. The Mesoderm-Forming Gene brachyury Regulates Ectoderm-Endoderm Demarcation in the Coral Acropora digitifera. Current Biology. 2016;26:2885–92. https://doi.org/10.1016/j.cub.2016.08.011
4) Yasuoka, Y., Tando, Y., Kubokawa, K. et al. Evolution of cis-regulatory modules for the head organizer gene goosecoid in chordates: comparisons between Branchiostoma and Xenopus. Zoological Lett 5, 27 (2019). https://doi.org/10.1186/s40851-019-0143-1
5) Yuuri Yasuoka, Masahito Matsumoto, Ken Yagi, Yasushi Okazaki, Evolutionary History of GLIS Genes Illuminates Their Roles in Cell Reprograming and Ciliogenesis, Molecular Biology and Evolution, Volume 37, Issue 1, January 2020, Pages 100–109, https://doi.org/10.1093/molbev/msz205
 

[終了] 生命誌 研究者セミナーの開催(研究者・学生向け、要登録)

タイトル:発生ゲノミクスで探る脊椎動物の進化過程

講演者:安岡有理博士(理化学研究所生命医科学研究センター)
日時: 2023年1月20日(金)13:30- 14:30
場所: Zoomでのライブ接続
要登録:締切2023年1月18日 (お申し込みを締切りました)

要旨:生命進化の歴史において、機能的・構造的制約を強く受けた形質ほど進化しにくく、生物間で高い保存性を示す。その一方で、生活史や生息環境が変化することで進化的拘束が弱まり、生物多様性が生み出されてきた。胚発生過程についても同様で、システムの頑健性と可塑性が共存する中、様々な細胞タイプ・組織形態・ボディプランが進化してきたと考えられる。本セミナーでは、動物の胚発生システムの進化における頑健性と可塑性に焦点を当て、シュペーマンオーガナイザーの進化、脊索の進化、中胚葉の進化、重複遺伝子の進化などを例に、生物がゲノムの中に何を残し何を変化させることで新たな形質を進化させてきたのかを概説する。その上で、進化をより理論的・包括的に理解するために近年取り組んでいる、遺伝子発現の揺らぎと進化の関係についても紹介したい。

本セミナーは生命誌研究館内で行われる研究者セミナーをハイブリッド形式でライブ中継するものです。参加希望の方は こちらより登録 (1月18日お申し込みを締切りました)をお願い致します。開催日が近づきましたらZoomの接続情報をお送りします(ご登録いただいたメールアドレスは本目的以外には使用しません)。来館しての現地での参加はできません。
講演内容は研究者・大学生向けとなっております。質問やコメントをチャット機能で受け付けますが、時間等の関係で一部の質問にしか対応できない可能性があります。あらかじめご了承ください。

セミナー主催者    小田広樹



ライブ配信は終了しました。ご視聴ありがとうございました。アーカイブ配信の予定はございません。何卒ご了承ください。

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