論文
Kusumi, J., Azuma, H., Tzeng, H.-Y., Chou, L.-S., Peng, Y.-Q., Nakamura, K., and Su, Z.-H. (2012)
Phylogenetic analyses suggest a hybrid origin of the figs (Moraceae: Ficus) that are endemic to the Ogasawara (Bonin) Islands, Japan.
Mol. Phylogenet. Evol. 63: 168-179.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1055790312000218?via%3Dihub
解説
日本には南西諸島を中心に16種のイチジク属植物が生息しており、そのうちの3種が小笠原諸島の固有種である。イチジク属植物はイチジクコバチのみを花粉媒介者としており、両者の間に「1種対1種」という種特異性の高い共生関係が構築されている。島々に生息する植物とその送粉者との共生関係は崩れやすいと一般的に考えられている。しかし、南西諸島のイチジク属植物と送粉コバチとの間には、その「1種対1種」関係は厳密に維持されており、両者の間に同調的な系統分化も起きていたようである(Azuma et al. 2010)。では、さらに遠く離れている小笠原諸島のイチジク属植物とそのコバチとの関係はどうだろうか。従来、南西諸島に生息するイヌビワが小笠原諸島に渡って種分化し、小笠原固有種となったと考えられており、送粉コバチもイヌビワコバチ由来であると思われている。
本論文は小笠原イチジク属植物、イヌビワとその近縁種を含めた系統解析によって小笠原諸島のイチジク属植物とそのコバチの起源について調べてみた。植物の解析には、葉緑体DNAと核DNA(Aco1遺伝子、G3pdh遺伝子とITS領域)を用い、コバチの解析には28S rRNA遺伝子とミトコンドリアcytB遺伝子を使用した。その結果、葉緑体DNAの系統樹は小笠原イチジク属植物がイヌビワと近縁であることを示し、従来の考えを支持したが、一部の核DNAからは両者の姉妹関係が見られなかった。また、コバチの系統樹においても、小笠原イチジクコバチとイヌビワコバチとの姉妹関係は見られなかった。これらの結果から、小笠原イチジク属植物はイヌビワを母系とする雑種起源であることが明らかになり、小笠原イチジクコバチはイヌビワコバチに由来したものでなはないことが判明した。本研究の結果はイチジク属植物とイチジクコバチの「1種対1種」という厳密な共生系においても寄主転換が可能であることを示唆し、交雑による種分化の要因解明にもつながるものである。