「イチジク属植物とイチジクコバチの共生関係の仕組みについて」
私達の研究室で、研究対象としている「イチジク属植物とイチジクコバチの共生関係の仕組みについて」映像や動画を使って詳しく説明していきたいと思います。
日本国内では、南西諸島から関東まで分布していますので、気をつけて観察していただければ皆さんの周りでも見つけることができるかもしれません。
イチジクと言えば、頭に浮かぶのは果物のイチジクであろう。実は果物のイチジクはイチジク属(Ficus)に属する多くの種のうちの1種(Ficus carica)であるにすぎない。つまり、イチジクには多くの仲間がいる。
イチジク属はクワ科において最も種多様性が富む属であり(750種以上)、唯一の送粉者であるイチジクコバチとの間に、互いに利益がある「相利共生関係」が構築されている。その相利共生関係の特徴と仕組みについて詳しく見てみましょう。
イチジクとイチジクコバチの生活環を覗いてみよう!
成熟した花嚢から出る♀コバチ
コバチは花嚢の中で孵化、成長、交配を終え、♀コバチだけが花粉を身に着けて花嚢から脱出し、若い花嚢へ旅立つ
♀コバチの奮闘
♀コバチは若い花嚢を見つけ、中に侵入しようとするが、何重の苞葉にも包まれている花嚢の入り口を通るのは至難の技。そこで翅を落としてしまう場合が多い。このように苦労して花嚢に入ろうとする♀コバチの目的は、勿論イチジクの花粉を運ぶだけではなく、自分の子供を残すために花嚢中の花に産卵するためである。
上段:虫こぶ(イヌビワコバチ)、下段:コバチの交配(オオイタビコバチ)
産卵を終えた♀コバチはその花嚢の中で命を終えるが、産卵された花は、虫こぶとなり、次世代のコバチが中で成長していく。 成虫になった♂コバチは虫こぶを破って脱出することができるが、♀コバチはそれができない。 そこで、♂コバチは♀コバチの虫こぶを見つけ、外から穴を開けてあげる。同時にお尻を入れて交配をする。 その後、♀コバチが虫こぶから出てくる。
イチジク属植物には、雌雄同株の種と雌雄異株の種がある。それぞれおよそ半分ずつの種数を占めている。日本ではガジュマル、アコウとオオバアコウが雌雄同株で、その他の種はすべて雌雄異株である。
イチジク属植物の花嚢には、基本的に3種類の花がある。それは花柱の長い雌しべ、花柱の短い雌しべ、それから雄しべである。
コバチは花柱の先端から産卵管をさして産卵するため、花柱の長い雌しべには産卵管が子房まで届かないため産卵できない。産卵できるのは花柱の短い雌しべのみで、花柱の長い雌しべは授粉され種子を作る。
最終的には、♀コバチが花嚢から脱出し、若い花嚢に侵入して産卵することによって、コバチの生活史が完成される。 花嚢の脱出口はイチジク植物の種類によって異なる。大きく2タイプがある。一つは花嚢の先端にある入り口が花嚢の成熟に伴い少し開いて脱出口となる(イヌビワなど)。もう一つは花嚢の内側から花嚢の壁に新たな穴を開ける(ハマイヌビワなど)。その穴を開けるのは♂コバチの役割である。
イチジクコバチはその生活史のほとんどを花嚢の中で過ごす。
特に多くの♂コバチは一度も外にでることなく一生を花嚢の中で終える。
次はイチジク属植物の繁殖システムをみてみましょう!
あたり?はずれ?
♀コバチは苦労して花嚢に入るが、「アタリ」と「ハズレ」がある。それはこの後説明する雌雄異株のイチジク植物の♀株と♂株の花嚢中にある花の形態の違いによる。
♀株の花は花柱が長く、そこに産卵できないため、コバチにとって「ハズレ」である。一方、♂株の花は花柱が短く、その花に産卵できるため、コバチにとって「アタリ」である。しかし、花嚢の外からは区別できない。これはイチジク植物の繁殖システムの戦略である。
イチジク属には、雌雄同株の種と雌雄異株の種がある。それぞれおよそ半分ずつの種数を占めている。日本ではガジュマル、アコウとオオバアコウが雌雄同株で、その他の種はすべて雌雄異株である。
イチジク属植物の花嚢には、基本的に3種類の花がある。それは花柱の長い雌しべ、花柱の短い雌しべ、それから雄しべである。
コバチは花柱の先端から産卵管をさして産卵するため、花柱の長い雌しべには産卵管が子房まで届かないため産卵できない。産卵できるのは花柱の短い雌しべのみで、花柱の長い雌しべは授粉され種子を作る。
以上に見てきたように、イチジクコバチは、イチジク植物なしでは次世代を残すことは勿論できないし、生きることもできない。一方、イチジク植物はイチジクコバチなしでは送粉者がいないために種子を作ることはできない。両者の関係は絶対共生である。
では、もう一つの特徴である「1種対1種」を見てみましょう
1種対1種の関係を学ぼう!
イチジク属植物とイチジクコバチの共生関係は、種特異性が非常に高い。多くの場合は「1種対1種」である。
例えば、イヌビワとイヌビワコバチ、アカメイヌビワとアカメイヌビワコバチが、それぞれ共生関係を形成している。2種の植物が隣り合っても、それらに対応する2種のコバチは決して間違いなく、自身の植物を正確に認識してその花嚢にアクセスする。(スライド中のコバチ写真は有本より)
1種対1種
日本に分布するイチジク属植物とその送粉コバチについて、我々の研究では基本的に「1種対1種」の関係が厳密に維持されている。ここでは代表的な数種の写真を示している。
植物は葉の形や花嚢の形状とつく場所に、コバチは触角の形態に注目して観察すると、それぞれの種の特徴が見えてくる。DNAによる系統解析では、7種のうち、オオバイヌビワ、アカメイヌビワとギランイヌビワの3種は比較的に近縁であり、それらのコバチも同様に近縁種である。写真(形態特徴)からもその近縁性を見て取れるのでしょうか。
コバチの写真は有本撮影、スケールバーは0.5mm(オオイタビコバチのみは1mm)。
DNAによる系統解析についての論文です
Molecular phylogenies of figs and fig-pollinating wasps in the Ryukyu and Bonin (Ogasawara) islands, Japan. Genes Genet. Syst. 85: 177-192 (2010).
共同研究をしている台湾の大学の研究室の方たちと、研究室のメンバーで、台湾に調査・採集に行った時の動画をまとめました。フィールドワークの雰囲気を感じていただけたら嬉しいです。 (撮影者も一緒に歩きながら撮影をしていたので、手ブレがあります。酔わないようにご注意ください)
台湾の調査・採集の成果は数多くありますが、その中の一つが論文として公表されています。
Genome-wide sequence data suggest the possibility of pollinator sharing by host shift in dioecious figs (Moraceae, Ficus).