年度別活動報告
年度別活動報告書:2006年度
3.分子系統から生物進化を探る 3-4. 日本産オオオサムシ属の雑種形成機構に関する研究
はじめに
本研究はオサムシ研究プロジェクトにおいて未完成の部分について行ったものである。日本固有のオオオサムシ亜属 (Ohomopterus)は16-17種に分類されており、その下に多くの亜種が記載されている。本研究はミトコンドリアND5遺伝子に加えて、核ITS DNA領域も用いて、オオオサムシ亜属の種間と種内の詳細な系統解析を行った。核DNAの系統樹は形態種を大まかに反映しているが、ミトコンドリア遺伝子の系統樹は全く異なった結果を示し、幾つかの地域系統を形成した(図9と10)。これらの結果から、オオオサムシ亜属に置いては、一方向性の交雑が広範囲で起きていたことが分かり、それによってミトコンドリアの置換も種或いは集団全体で起きていたことが判明した。核DNAの系統樹とミトコンドリア遺伝子による系統樹を比較して、オオオサムシ亜属の雑種集団の形成過程、ミトコンドリアの水平移動の経路、交雑由来集団の安定した分布域の拡大などを明らかにした8)。これは雑種集団が新しい形態種になりうることが示され、種分化のメカニズムを解明する上、大きな意味を有すると考える。
図9. 核rRNA遺伝子のITS (internal transcribed spacer) 領域の塩基配列によるオオオサムシ属 (Ohomopterus) の系統樹。MAFFTによるアライメントの後、NJ法で系統樹を作成。枝上にある数字は系統樹の信頼度を示すBootstrap値である。サンプル名の前のシンボルはそれぞれの種を表している。
図10. ミトコンドリアND5遺伝子によるオオオサムシ属 (Ohomopterus) の系統樹。KNK, 近畿;CJP, 中部日本;KII, 紀伊半島;KSI, 九州・山陰;WJP, 西日本;SHK, 四国;SYO, 山陽;JSE, 日本海島・東日本。他の説明は図9を参照。
引用文献
1) Weiblen G. D. (2000) Phylogenetic relationships of functionally dioecious Ficus(Moraceae) based on ribosomal DNA sequences and morphology. American Journal of Botany 87: 1342-1357.
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