昆虫-植物関連性データベースで解析研究に挑戦


もくじ
   

生物の分類階層について予備知識

 
生物の分類階層について、基礎的な解説をします。ご存知の方は読み飛ばすか、もくじから「第一部: 演習」に飛んでください。

基本的な生物の分類階層

界 > 門 > 綱 > 目 > 科 > 属 > 種


生物の種類は、「種」という分類単位に「属名+種名」で唯一無二の名前が付けられる。これを二名法という。人類の姓名のようなイメージだが、同姓同名の別種は存在しない。

当研究室の研究材料であるナミアゲハを例にすると

動物界 > 節足動物門 > 昆虫綱 > アゲハチョウ科 > Papilio 属 > xuthus

となって、Papilio xuthus が学名となる。学名は斜体で表記するのが通例。加えて、属名は大文字で始まり、種名は小文字で始まる。

基本分類単位に加えて、もう少し細かい分け方もある。例えば、必要な場合に限り「科」の上下に「上科」「亜科」という分類単位もあるし、「属」の下に「亜属」があったり、「種」の下に「亜種」がある。
さらに、必要な場合には科と属の間に「族」が設けられる。植物の場合は「族」と同じ階層が「連」となるが、植物の場合は連がグループ分けの単位としては比較的重要である。

昆虫の食性のように、昆虫と植物の関係を考える上では、昆虫側も植物側も「科」が重要な分類単位になることが多い。

「種」というのは、性別がある生き物に関しては、生殖可能な場合は同種、生殖隔離がある場合は別種とされる。同種内の、地域間での違いなどをグループ分けする場合に「亜種」が使われる。つまり、ちょっと違っているけど、交配するとキチンと子供ができる場合は亜種とされる。ただし、別種とされる生物間で交雑が起こる例は多々あるので、厳密に「種」を定義することは難しい。しかも、生殖隔離を基準にすると、性別がない生き物の場合は定義できない。

そもそも「種」などの分類群はヒトが生き物をグループ分けするために使う単位でしかないので、ヒトがどのように認識するのかに依存している。とはいえ、会話や文章で共通の認識を得るためには有益なので、分類単位や学名を便利に利用する。
 

 

第一部: 演習 - 基本的な使い方を知る


 日本では昆虫の愛好家が多く、生態の観察記録など莫大な情報が図鑑や文献に蓄積されています。日本の昆虫学において「アマチュア研究者」たちが果たした貢献は大きかったと思われます。しかし、蓄積された知見のすべてに精通し、知識として活用するのは困難です。InsectInDBは、「アマチュア研究者」たちによって蓄積された貴重な記録を電子データ化することで、世界中の人が情報として活用できるようにすることを目指して構築されました。
 どの昆虫がどの植物を食べるか辞書引きのように探すことができるだけではなく、関連する生き物たちがどのようにつながっているのか一覧して、大量に蓄積された情報から生き物の関係を知識として取り出せるのが特徴です。

使ってみよう
どんな事ができるのか、まずは使ってみましょう。

アクセス
InsectInDB 日本語版にアクセスします。このページとは別のタブかウインドーを開いて、InsectInDBを表示しておくことをお勧めします。

https://ja.insect-plant.org/(クリックすると新しいタブで開きます)


食草園のチョウたち
画面左側にあるメニューを開いて、「食草園のチョウたち」を選択します

ここには、Ω食草園に飛んで来たことがあるチョウ(と来たことはないけど研究に使われているチョウ)と、そのチョウたちの食草の中からΩ食草園にある植物が、データベースから抜き出されて表示されます。大きな建物の4階の中庭のような環境なのに、色んなチョウたちが訪れていて、高槻には豊かな生物層があるんだなぁということが感じられます。

拡大・縮小

スクロール操作

スマートフォン・タブレットならピンチ(二本指で開いたり閉じたり)
Macならトラックパッドを二本指で上下
Windows等マウスを使う場合はホイールをクルクル

カーソルがある位置を中心にして、画面が拡大・縮小されます。


注目
「アゲハチョウ科」など、注目したいグールプのアイコンをクリックすると強調表示されます。強調表示の解除は、同じアイコンをもう一度クリックするか、別のアイコンをクリックします。


ネットワーク図全体の移動
    スマートフォン・タブレットなら空白部分に一本指で触って動かす
    パソコンなら空白部分をクリックしたまま動かす

オブジェクト(アイコンなど)の移動
    動かしたいものをクリックしたままカーソルの移動操作

これで一通りの操作を体験しました。

InsectInDB のメニュー内「使い方」に動画での解説もありますので、そちらも参照してください。
 

第二部: 実習 - 検索機能を試してみる


検索機能を試してみましょう。

メニューから「昆虫食草ネットワーク」を選択します。


昆虫の分類群で「種」を選択して、「名前:」と書かれた検索窓に「ギフチョウ」と入力してみましょう。文字を入力し始めると、該当する名前の候補が表示されますので、候補メニューから選択するのが確実です。

ちなみに、ギフチョウは食草園に飛来した実績はありませんが、食草選択の初期段階を考える上でとても重要な研究材料です。

植物の方の検索窓は空欄のままで大丈夫ですので、画面下の「検索」ボタンをクッリクします。

シンプルなネットワーク図が表示されて、ウマノスズクサ科の色んな植物を食べている事が解ります。


それでは、メニューからもう一度「昆虫食草ネットワーク」を選択して、今度は昆虫の検索窓は空欄にして、植物の分類群で「科」を選択、植物の名前として「ウマノスズクサ科」を入力して検索します。

今度はちょっとだけ複雑なネットワーク図が表示されました。同じものを食べているチョウ同士、同じチョウに食べられている植物同士のように、共通する関係が多いもの同士が近くに集まります。分類学的な類似性ではなく、昆虫と食草の関係性という「生きている」状態での類似性でグループが作られているんですね。

表示されたネットワーク図を見ると、ギフチョウとヒメギフチョウがいろんな種類のカンアオイ属を食べている事が解ります。グレーのアイコンの「カンアオイ属」をクリックして確認してみましょう。


今度は、ギフチョウ のアイコンをクリックして、どんな植物を食べているのか確認します。次に、ヒメギフチョウのアイコンをクリックして、ギフチョウとの違いを確認します。このよく似たチョウたちに、食性という視点からはどのような違いがあるのか一目瞭然

Luehdorfia japonica (on Erythronium japonicum s5)
ギフチョウ

ヒメギフチョウ
ヒメギフチョウ posted by (C)mi-tama

また、ミカン科食性のアゲハチョウの一部や、セリ科食性のキアゲハが、一部のカンアオイ属を食べている事が解ります。「へー、ナミアゲハがカンアオイを食べるんだ!」と思ったら、「ナミアゲハ カンアオイ」をキーワードにしてGoogle検索をしてみましょう。

新しいタブかウインドーを開いてキーワード「ナミアゲハ カンアオイ」を入力して、検索結果を見ると、どうも自然界で産卵や摂食が観察されているわけではなく、飼育して人為的に与えた場合に食べる事が確認されているようだ、という事が見えてきます。また、当館の元顧問である吉川寛先生の記事を読むと、ナミアゲハなどがカンアオイを食べる事ができるという観察について、祖先の進化的な記憶ではないかと考察されています。

さらに、ウマノスズクサ科の中でもウマノスズクサ属の仲間を食べるジャコウアゲハなどがいて、関連性によるグループ分けを見るとそれらはチョウとしても植物としてもギフチョウとは大きく異なるのではないかという事も見えてきます。この違いを生み出している原因は何でしょうね。不思議だな〜と思ったことを、研究テーマとして考えてみても良いでしょう。


シンプルなネットワーク図から、いろんな情報が読み取れますね!
 

第三部: 練習問題 - 身近なチョウと植物を調べてみる


身の回りにいる生き物を使った、昆虫と植物の関係性解析の実践に向けた練習をしてみましょう。

身近な生き物を検索
以下は、生命誌研究館のΩ食草園に飛来した事があるチョウと、食草園内にある植物です。生命誌研究館がある高槻市では、比較的身近な生き物ということになるでしょう。
 

昆虫の名前を調べる


例題1

こちらの蝶の写真をご覧ください。山間に多く生息するチョウなので、平地ではあまり見かけないのですが、食草園に飛来実績があります。仮にこのチョウが飛んでいるのを見かけたとします。どんなチョウなのか知るために、目についた特徴をキーワードとしてGoogle検索を行ってみましょう。新しいタブかウインドーを開いて、次のキーワードで検索してください。
 

例: 「黒いチョウ 後翅に大きな斑紋」


Googleの検索結果に「画像」というタブがあるはずですので、そこをクリックして画像検索に絞り込みます。画像の一覧を見ていくと、よく似たチョウの写真が見つかるはずです。


画像のリンク先を見てみると、このチョウは「モンキアゲハ」である事が解ります。

名前がわかったので、InsectInDBのメニューから「昆虫を検索」を開いて、分類群は「種」を選択した状態で「モンキアゲハ」を検索しましょう。


検索結果を見ると、学名が「Papilio helenus」である事が解ります。分類階層とWikipediaから引用した見本の画像も表示されます。
興味のある分類階層でネットワーク図を表示してみてください。

ネットワーク図から、昆虫と植物にどんな関係があるか読み取れたでしょうか。アゲハチョウの仲間の多くがミカン科食性であるということを知っている人にとっては、「え?そんなのも食べるの?」と思うような食草が見つかるかも。

例題2

こちらは食草園によく来るチョウの一つです。小さくて可愛らしいこのチョウも、目についた特徴でGoogle検索をして画像を探してみましょう。
 

例: 「オレンジ色のチョウ 黒い斑点」


模様が小さい場合は「斑点」、大きい場合は「斑紋」と使い分けるのは結構大切です。検索結果の画像一覧から似たものを探すと、「ベニシジミ」というチョウである事が解ります。

InsectInDBのメニューから「昆虫を検索」を開いて、分類群は「種」を選択した状態で「ベニシジミ」を検索しましょう。

ベニシジミの食草は何で、どのような関連性のつながりがあるのでしょうか。よく見るチョウだけど、ものすごく個性的?
 

植物の名前を調べる


次は、身近な植物で検索する方法を見てみましょう。

例題3

これは食草園にもありますが、道端や公園や河原など、いろんなところでよく目にする植物です。気がついたらプランターにたくさん生えてた!という事もあるくらい、よく見る植物です。昆虫の時と同様に、パッと見の特徴でGoogle検索をして、画像を探します。
 

例: 「ハート型の葉 草」


検索結果の画像の中から似ているものを探すと、「カタバミ」だという事が解ります。
今度は、InsectInDBのメニューから「植物を検索」を開いて、分類群は「種」を選択した状態で「カタバミ」を検索しましょう。

さて、カタバミにはどんなチョウが訪れるのでしょうか。そして、そのチョウはどのようなネットワークを構築するのでしょうか。

例題4

食草園にありますが、花壇などで見かける機会もある植物ではないでしょうか。
 

例: 「花 紫色の斑点」


画像検索の結果から似ているものを探すと、「ホトトギス」だというのが解ります。これについてもInsectInDBのメニューから「植物を検索」を開いて、分類群は「種」を選択した状態で「ホトトギス」を検索しましょう。

ホトトギスはどんな昆虫たちとつながりがあるのでしょうか。

特徴をキーワードにしてGoogleで画像検索を行うと、比較的簡単に生き物の名前を調べる事ができるので、ぜひ活用しましょう。

それに加えて InsectInDB を使うと、生き物のネットワークが簡単に調べられます。
 

第四部: 課題 - 解析を実践してみよう


 ここまででInsectInDBの使い方と、基本的な解析の進め方が身についたと思いますので、最後に自分で生き物のネットワークを調べてみましょう。
 公園で見た蝶でも良いですし、庭で見つけた植物でも良いですし、何か自分で生き物を見つけて InsectInDB を検索してください。そしてネットワーク図を表示して、配置を変えてみたりして関係性を観察してみましょう。

レポートを提出
 InsectInDB にはネットワーク図をスクリーンショットとして保存する機能があります。画面左の「ダウンロード」という項目に「食草ネットワーク図」というボタンがありますので、クリックしてみましょう。その時画面に表示されているネットワーク図が、そのまま画像として保存されます。

 保存した画像と一緒に、以下についてメールで報告してください。頂いたレポートは、この記事の下部に掲載いたします。レポートの提出だけ行って、掲載を希望されない場合は、その旨お知らせください。

送信先: lecture_0715@brh.co.jp
・掲載用のお名前(個人を特定できないニックネーム等)
・検索キーワード
・調べてみた生物の名前
・ネットワーク図を見て気がついた事(または感想)

皆様からのレポートをお待ちしております。
(採点や単位の付与は行いません)

<ご注意>
※一度に多数の投稿をいただいても掲載できない場合があります。
※主旨にそぐわないコメントや以下の内容を含むものは掲載できません。
 ・ 営利目的の情報
 ・ 不必要な個人情報
 ・ 人を不愉快にさせるような記述
 

引用について

InsectInDB に関連して文献等で引用される場合、ダウンロードしたデータやスクリーンショットを使用される場合は、当サイト(https://www.brh.co.jp/research/lab01/InsectInDB/)へのリンクを掲載すると同時に下記の論文を引用してください。
 

Ai Muto-Fujita, Kazuhiro Takemoto, Shigehiko Kanaya, Takeru Nakazato, Toshiaki Tokimatsu, Natsushi Matsumoto, Mayo Kono, Yuko Chubachi, Katsuhisa Ozaki* & Masaaki Kotera* (2017)

Data integration aids understanding of butterfly–host plant networks

Scientific RepoRts | 7:43368 | DOI: 10.1038/srep43368 

http://www.nature.com/articles/srep43368.epdf

 

レポート

近日掲載予定