生命誌ジャーナル

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RESEARCH 01生命誌研究のこれまでと今

脊椎動物の「形」づくりの
基本はなにか

橋本主税(カエルとイモリのかたち作りを探るラボ)

生きものの形づくりを知るには、分子だけでなく、発生現象そのものを見ることも大切です。10種類以上の両生類を比べることで、形づくりの基本である“原腸形成”を脊索動物で統一的に理解するモデルができました。次に注目しているのは、細胞の増殖と分化の関係性です。

1. 形づくりの根源とは

学生の頃から生きものや、その形づくりについて知りたいと思い、最初は分子生物学の研究室に入りました。大腸菌やファージを扱う研究室です。でも、そこに入ってすぐに、分子だけで生きものなんてわかるはずがないと思いました。形づくりのプロセスを明らかにするには分子だけを見ていても何もわからないと考えるようになったのです。体の中では1つの分子が様々なはたらきをしているので、その中で分子に「これは〇〇をする分子です」と特定の意味づけをすること、つまり現象と分子を直接的に繋げるのは無理だと思ったわけです。でも、やっぱり生きものの「形」づくりについて知りたいと思って、今はイモリとアフリカツメガエルを使い、目に見える現象である“原腸形成”に注目して発生学の研究をしています<図1>。脊椎動物はその種類によって卵の形は多様だけれど、“原腸形成”という過程を経ることで共通の形を持った咽頭胚(尾芽胚)になります。そしてその後はまたそれぞれの種特有のかたちへと成長していくのです。私たちはこの原腸形成に脊椎動物の形づくりの根源が隠されていると考えています。

図1

アフリカツメガエルの発生の様子。8細胞期の胚が次々と細胞を小さくしながら分裂する。最終的に数万個の細胞数になるまで分裂し、その後原腸形成運動をはじめる。原腸形成では、細胞がダイナミックに移動しながら、頭尾・脊腹・左右の三体軸を形成して、からだが形づくられていく。

2. カエルの顔色をうかがう

カエルを用いた実験をする時は、何日も前から毎日水槽室へ足を運んでカエルの様子をうかがいます<図2>。きっちりと決まった時間に餌をあげるとか、水槽の掃除や水を替えるなどの世話をします。そして実験の当日はカエルの顔をよく見て自分が納得したものを選ぶのです。これを言うと日本人的な職人の話になってしまい、非科学的に聞こえるかもしれません。どのカエルを使って実験しても出る結果は同じだという合理的な考え方もある一方で、私の中でのこの準備は失敗しないための大切な一手間です<図3>

図2

水槽室にいるアフリアツメガエル。脊椎動物の有名なモデル生物である。水の中で生活し、呼吸のときに水面に上がってくる。当研究室では約150匹のアフリカツメガエルと共に研究を行っている。普段は水の中でおとなしくしているが、餌の時間、浮いた餌を手で一生懸命口にかき込む様子が愛らしい。

図3

1つの受精卵が分裂して2細胞または4細胞になったタイミングで片方の細胞に、蛍光タンパク質や遺伝子をノックアウトするためのRNAを顕微注入(マイクロインジェクション)することで発生過程の細胞を追跡したり、発生に関わる遺伝子機能を調べる。顕微注入するための針はガラス管をもとに手作りしたものであり先端の経は1-2μmほど。短時間で分裂し刻一刻とかたちを変えながら発生が進む発生段階のステージを見分けるのも経験が必要である。

3. すでにそこにあった答え

ある時、カエルの卵を剥いて転がらない状態にしたまま、翌朝までシャーレに置き忘れことがありました。この卵の運命をシュペーマンの提唱した両生類の形づくりのモデル(今でも高校の教科書にはこの説が載っています)に即して予想すれば、オーガナイザー(形成体)が胚の尻尾側から北極側まで順に遡りつつ頭部を形づくるわけですから、翌朝には胚の上部に形成された頭部が確認できるはずです。ところが実際は、あるはずの頭部が見あたりませんでした。死んでしまったのだろうかと思って卵を裏返すと、なんと頭部は、側面に形成されていたのです。この発見が全ての始まりでした。我々はアフリカツメガエルで従来の説とは頭尾形成の順が逆であるという発見をしました<論文1>。当時は「ツメガエルだからでしょ」という意見もあり、なかなか受け入れてもらえず、論文が受理されるにもずいぶん時間がかかりました。そこでイモリなど思いつく限りの十数種類の両生類で原腸形成を見てようやく納得の得られる証明ができたわけです<論文2><図4>。このモデルの発見により、今、両生類の原腸形成運動が脊索動物門の全ての原腸形成を説明できるところまできています。ここから脊椎動物の共通性を導き出すことで、今まで困難だったサカナとカエル、カエルとトリやヒトの形づくりを共通の言葉で表現できるかもしれません。カエルを調べることでヒトが見えてくるかもしれない…面白くなりそうだと思いませんか。
ところでこの現象自体は特に新しいものではなく、これまでも世界中の皆が見てきたものなのです。最初から答えはここにあった。いま目の前で起きている現象をどう見るかが大事。これがまさに私の思う研究の面白いところです。でも、実際のところまだこの説は世界に広く浸透していません。新しい説が世の中に浸透するには時間がかかるようです。しかし私たちはこの新たな発見について「絶対に間違っていない」と確固たる自信を持っています。いつの日かきっとパラダイム・シフトが起こると信じ、このモデルを知ってもらうための活動に励みたいと思います。

<論文1>

Koide, T., Umesono, K. and Hashimoto, C. (2002)
When does the anterior endomesoderm meet the anterior-most neuroectoderm during Xenopus gastrulation? Int. J. Dev. Biol. 46: 777-783


これまで約100年もの間信じられてきたシュペーマンらによる原腸形成のモデルを覆す発見をした。現在もなお信じられている説によれば、アフリカツメガエルの頭尾体軸はオーガナイザー(形成体)が胚の表層から内部へと入り込み、内表面を動物極方向へと遡り、移動しながら頭部から尾部を形成することで頭尾軸を誘導するとされている。しかし私たちは、行った受精卵の向きを固定した状態での観察により、その過程が全く逆であるという事実を明らかにした。これまで、数え切れないほどの研究者が見てきた形づくりの基本現象にもまだまだ新たな発見や面白さが隠されている。

<論文2>

Yanagi T. Ito K. Nishihara A. Minamino R. Mori S. Sumida M. Hashimoto C. (2015)
"The Spemann organizer meets the anterior-most neuroectoderm at the equator of early gastrulae in amphibian species" Development, Develop.Growth Differ . DOI: 10.1111/dgd.12200


2002年にアフリカツメガエルを使って明らかにした原腸形成運動は、一般的に信じられているモデルと大きく異なることや、アフリカツメガエルが両生類の世界では特殊だと考えられていたことから受け入れられずにいた。そこでこの論文ではイモリやサンショウウオなどの両生類を調べ、ツメガエルのモデルが他の両生類にも一般化できることを明らかにした。オーガナイザーの動きを詳細に観察したところ、脊索動物さらにはニワトリの発生にも共通することがわかり、新たな両生類の原腸形成機構を中心として全ての脊索動物の形づくりのしくみの理解につながると考えている。

図4

研究室で飼育しているアカハライモリ。アフリカツメガエルと同様に原腸形成の研究を行っている。春夏秋冬と各季節を感じなければ産卵しないので研究をするために毎年採集に行く。寒い時期、運が良ければどこかで固まってイモリ団子となっていることがあって、ひとすくいで何百匹と取れる。しかし暖かくなるといろいろな川の主流へと移動してバラバラになっていたりするので、最終日まで、青い顔をして探したこともある。毎年いる場所が変わることに加え、その時の気温にも左右されるので採集には苦労もある。

4. 普遍と多様

ひとくちに脊椎動物と言っても、両生類や鳥類や哺乳類と、非常に多様です。しかし、生きものがどれほど多様で複雑になったとしても、それぞれの違いを除いたところには脊椎動物の普遍性があると思っています。その一つが今回明らかにした原腸形成運動です。生きものの進化や多様化を誘発するような変異がゲノムに起こった場合、その変異が残るか否かは、その個体が発生現象を全うできるかどうかにかかっているはずです。その意味で、やはり分子だけでなく発生現象を見ていくことは欠かせません。
現在は、脊椎動物の原腸形成の共通モデルをより深く理解するために、脊椎動物においてもっとも特徴的である頭部をつくる神経堤細胞に注目し、細胞周期や細胞の分化について調べています<論文3>。発生過程では、1つの受精卵が分裂して増え、移動しながらそれぞれの組織細胞に分化することでからだが形づくられます。その原腸形成の過程で神経堤は、胚発生の後期まで細胞分裂をくり返しながら未分化な状態を保ち続け、最終的に頭部をつくります。脊椎動物の形づくりの根源を明らかにするために、この細胞周期と分化の関係を理解するのは非常に重要だと考えています<図5>。まずはアフリカツメガエルで調べていますが、分裂を何度もくり返すために、知りたい現象の解析が思うように進みません。そこで、体の構造も細胞の分化の機構も極めて単純なプラナリア<図6>を併用することで、この問題に取り組んでいます。細胞周期と分化の関係を知りたい。それが胚発生という現象の本質、さらには進化過程における脊椎動物出現の理解に結びつくのではないかと期待しています。

図5

山の一番上にある球が未分化な細胞。谷筋を転がった球が分岐のところでどちらかの谷筋へ転がり落ちるのを細胞分化に見立てている。転がった球は登ることがないように、分化した細胞はもとの未分化な状態に戻れないことも意味している。私たちは、細胞周期を回している未分化な細胞がそれをいったん止めることで分化という新しい谷筋へと転がるのではないかと考えている。一方、神経堤細胞では細胞周期が回り続けるので谷筋ではなく尾根筋を進み続けるのだ。

図6

「切っても切ってもプラナリア」でおなじみのプラナリア。身体中に幹細胞が散在しており、切ったところから新たなからだが形づくられる。細胞周期と分化のサイクルがシンプルであり研究材料としての魅力もさることながら、その見た目の可愛らしさにも癒されている。

<論文3>

Nagatomo, K. and Hashimoto, C . (2007)
"Xenopus hairy2 functions in neural crest formation by maintaining cells in a mitotic and undifferentiated state" Dev.Dyn. 236:1475-1483


脊椎動物の特徴である頭部をつくる神経堤細胞は発生がある程度進むまで未分化な状態を維持していることが知られている。しかし、これまでその機構については未解明であった。この時の研究により 私たちはアフリカツメガエルでhairy2という遺伝子を発見し、この遺伝子が細胞を未分化状態にするようにはたらくことを発見した。さらにhairy2が神経堤のマーカーに成り得ること、ここから細胞周期と分化との関わり合いを見出せることを示した。つまり細胞周期が維持されている間は、細胞は分化せず、細胞周期の停止が分化へのきっかけとなる可能性を見出したのだ。現在はこの分化と増殖の関係が組織分化という枠組みを超えて、普遍的な生きものの形づくりに重要な役割を果たしていると予想して研究を進めている。

編集:JT生命誌研究館 表現を通して生きものを考えるセクター 中井彩香

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