生命誌ジャーナル

2014年間テーマ うつる

生きもの愛づる人びとの物語り2

研究と表現の両輪による活動を続けて20年、明確なまとまりが見えてきました。これをどのように生かし、どう展開するか。次の10年に向けて考えています。よい提案がありましたら是非。

1. チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ

はじめに

2014年3月1日に開催されたBRH20周年を記念する催し「生命展」の様子。研究者、学生、主婦などざまざまな背景をもつ方が集まり語り合った。

アゲハチョウを用いて、成虫が幼虫の食草を識別して産卵行動をする仕組みを解明する研究に取り組んでちょうど10年、第一段階の目標を達成できた。カイコなど、すでに研究方法が確立している“モデル生物”ではないアゲハチョウを選んだのには理由がある。植物に含まれる成分のうち、特定の化合物の組み合わせが産卵刺激物質となること、それを“味”として前脚にある化学感覚毛で感じ取って産卵行動が引き起こされることがわかっていたからである。アゲハチョウのメス成虫は、自分ではなく幼虫が食べる葉の味見をして、植物を見分け、産卵場所として選択している。昆虫と植物のように、全く異なる生物がどのように関わりあいながら生息しているのという仕組を分子のはたらきで解明するにはアゲハチョウこそ最適な研究材料といえる。

味見のための受容体遺伝子を発見

味覚や嗅覚といった化学感覚に関わる遺伝子群は類似性が乏しく、種ごとに独特な配列情報を持っているという特徴がある。つまり、他の生物で見つかっている同様の機能を持つ遺伝子の配列情報を手がかりとして利用できない。そこで、味物質認識の受容体は、細胞膜を7回通過しているという構造の共通性に注目した。そして、メス成虫の前脚で働いている遺伝子を網羅的に解析し、周期的な膜貫通領域をコードする遺伝子を探索した。その結果、味覚受容体ではないかと期待できる遺伝子をひとつだけ見つけることができた。この遺伝子を、味覚とは無関係な培養昆虫細胞で強制的に働かせたところ、産卵刺激物質の一つであるシネフリンにだけ反応した。

画像を拡大する

機能阻害に成功

遺伝子の機能解明するには、簡単な操作で遺伝子の働きを抑える事ができる「RNAi」という技術が有効である。ところがチョウやガの仲間ではRNAiがなかなか狙い通りの効果を発揮できないと言われてきた。しかし、標的の遺伝子を破壊した「ノックアウト系統」を作ることができないアゲハチョウでは、RNAiは不可欠な方法である。シネフリン受容体が働いている時期を詳細に調べたところ、羽化前日の蛹でピークになっていることが解ったので、このピークを狙って若い蛹にRNAiを行ったところ、狙い通りに働きを大幅に弱めることができた。

遺伝子の機能とチョウの行動をつなぐ実験

シネフリン受容体の働きを抑えたチョウは、本当にシネフリンの味を感じることができなくなっているのだろうか。化学感覚毛で感じた味の情報は、神経を流れる微弱な電気となって脳に伝わるので、それを検出する電気生理実験を行った。その結果、RNAiを行ったチョウは、明らかにシネフリンの味に応答しなくなっていることが確認できた。さらに、RNAiを行ったチョウを自由に飛ばせて、産卵刺激物質を塗布した人工の模造葉への産卵行動を観察したところ、産卵活性は大幅に低下していた。

結論

遺伝子-細胞-神経-行動と全ての階層にわたる実験により、シネフリン受容体が産卵行動に関与していることが解明できた。この様な「味を感じる仕組み」に何らかの変化が生じると、宿主として選択する植物が変わり、やがて進化(種分化)へとつながる原動力になるのではないか。次のテーマとして考えていることである。

次の10年で目指すもの

この研究を始めた2001年には想像すらできなかったが、次世代型シークエンサーの登場により、小規模な研究室でもゲノム全体を対象とする研究が可能になった。アゲハチョウと植物の関係は、進化の歴史としてゲノムに情報が刻まれている。その情報を読み取り、異なる生物が様々に関わりあいながら生息し、進化する過程を明らかにしたいと考えている。

20周年BRHシンポジウムシリーズ第2回「昆虫学研究の今と次の10年を考える」

次世代型シークエンサーの技術革新と生物情報科学(バイオインフォマティクス)の発展が、生物学研究が大量のゲノム情報から答えを探す時代になった。パラダイムの変化が起きているのである。これまでは「不思議な現象」として観察されていた、昆虫の“本能”に支配される各種行動を分子のはたらきで理解できるのだ。

第一部では、昆虫学の現在をテーマとした。特殊な行動を獲得したショウジョウバエの仲間で、本能的な活動をゲノム規模で複合的に研究している松尾さん(昆虫学・分子生物学)と、情報学の立場で昆虫ゲノムを解析し、異種生物から獲得した遺伝子の進化への寄与の解明を目指す武藤さん(バイオインフォマティクス)により興味深い話題が提供された。

第二部のパネルディスカッションでは、研究者が10年後という近未来の研究の姿をどのように思い描いているのか、第一部で提供された話題を踏まえ聴講者と共に議論した。さまざまな質問が飛び交い、熱気あふれる会となった。

研究の現場で科学者たちが交わしている会話そのままの議論となり、皆の頭の中が見える感じがした。参会者にもそれが通じたと思う。

20周年BRHシンポジウムシリーズについて→

チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ→

2. 表現を通して生きものを考えるセクター

「生命誌を編む─中村桂子・生命38億年の物語─」クランクイン!

編んで、編んで、編んで…。
DNAも、RNAも、タンパク質も、始まりは一本の糸。
絡み合ってらせんになり、球になり、命を支える…。
編んで、編んで、編んで…。
さまざまな生きものが生まれ、豊かな世界ができあがる。

チョウ、ハチ、クモ、カエルなど身近な生きものから生命現象の本質を探る生命誌研究館の日常と、顕微鏡で観るミクロの世界を20 周年を期して記録映像にまとめました。本年度は、「日常と科学の重ね描き」をする生命誌の活動をより深く広く伝える長編記録映画に取り組んでいます。中村館長が語る「生命誌」着想の経緯。自然エネルギーで自立する村を夢見る風の彫刻家新宮晋さんや、自然と調和する町を目指す建築家伊東豊雄さんとの語り合いなどを通して、私たちの暮らしの知恵として生命誌を考えます。

映画では、生命誌20 周年のもう一つの表現「生命誌版セロ弾きのゴーシュ」とその舞台制作の現場も取材しています。東北の風土に根ざす生き方に「ほんとうの賢さ」「ほんとうの幸せ」を求めた宮沢賢治の世界を生命誌として読み解きます。自然に基づき「生きている」ことを大切にする社会に向けて、新たな「知」を編み上げて行く生命誌を考えるこの映画は、2015 年春劇場公開を目指して撮影を進めています。ご期待下さい。

20周年BRHシンポジウムシリーズについて→

表現を通して生きものを考えるセクターについて→

ページの先頭へ

この画面を閉じる