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RESEARCH

ART in BIOHISTORY

マンダラ-全体をみる

ミクロの世界を見ている現代生物学も、生きているとは何かという大きな問にどこかでつながらねばならない。古代の生命観とも共有するところがあるだろう。

マンダラ in ART

両界曼荼羅の構造

胎蔵界曼荼羅(右)と金剛界曼荼羅(左)は、互いに補完的で切り離せない。
(図参考:頼富本宏『マンダラの仏たち』)

 

一人の人間が実際見ることのできるものには限りがあるが、多くの先人が残してくれた絵や物語などを通して、時間・空間を超えた多くを知り、考えることができる。天体図や地図、暦なども、私が何処にいるのかを教えてくれるものだ。

残されたものの一つ「曼荼羅」は密教の宇宙観を表し、仏の世界を目に見える形で表したものである。正方形や円など安定した図形を用い、確かな線と構成で緻密に作られた曼荼羅は、聖なる空間を視覚的に体感させ、密教寺院での礼拝はもちろん、優れた美術としての鑑賞、心理学者ユングをはじめ様々な学問からも注目されてきた。mandalaは、古代インドのサンスクリット語で「エッセンスを持つもの」という意味がある。仏という客観的視点を設定し、凝縮し整理された曼荼羅は、見事に本質を捉えた結果、様々な見方、多様な解釈を許す可能性を持ったといえる。

曼荼羅にも様々な種類があるが、「両界曼荼羅」という中国から伝来した曼荼羅を見てみよう。この二幅はワンセットで、いずれも中央に本尊の大日如来を描く。中心から周辺へ花開くような広がりや、四角い碁盤を渦状に巡る流れがあり、逆流して中心に向かうこともできる。信者にとっては、どのような仏様がいかなる救済をしてくれるのか、修行僧にとっては、辺縁の俗世から悟りの境地に至るまでにどのような過程があるのか、曼荼羅を辿りながら、自分が求める仏や、自己の位置を知るのだろう。

地図のようでもあり、俗と聖を繋ぐ扉にもなる曼荼羅だが、この二幅がそれぞれ表す意味を知ると、まるで生きものの話かと思えてくる。相補性はDNAの二重螺旋を連想させ、多様と共通、時間と空間はゲノムの持つ特性である。

独自の思想を自在に盛り込みながら曼荼羅を解釈し展開した人物に南方熊楠がいる。自然も人の心も、科学も暮らしも、全体として考えようとした熊楠が、世界の捉え方を図で表した「南方マンダラ」は、近年明らかになった細胞内物質の関係図とも類似していて面白い。自然界は複雑な関係の中にあり、人間はその秩序と混沌をなんとか整理して理解しようとしている。

ゲノムという切り口と、進化・発生・生態系という視点で、ヒトとして、私として存在する場所を思い描く生命誌は、現代のマンダラを描き、そこから“生きる”ことを考える知なのである。
(きたじ・なおこ)

マンダラ in Science

 

タマネギの細胞、一つ一つの丸い核の中にゲノムが収まる様子も曼荼羅のよう。

酵母細胞内にあるタンパク質の相互作用を示した図。たくさんのリンクを持つタンパク質は酵母が生きていく上で特に重要でなくてはならない。

"Lethality and centrality in protein networks" H.Jeong et al.
Reprinted by permission from Nature Vol.411(6833) 41-42 2001 Copyright: Macmillan Magazines Ltd.

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