季刊誌「生命誌」通 巻28号 
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オサムシから進化を語る
日本列島のオサムシ相形成史:富永 修
 「バッハは小川(バッハ)ではなく、大海(メール)である」とベートーベンは言い、「バッハは終局である」とシュバイツァーは書いた。しかしバッハは、流れを集めて再び注ぎ出す大きな湖なのだと思う。生命誌研究館で行ったオサムシの共同研究もこれに似ている。個性も歴史も異なる個人(小川)が、1つの目的のために結集し、個人レベルではなし得ない研究(湖)を完成させ、それを糧に再び独自の河川となって流れ出る。どんな湖ができたか、なぜオサムシで、なぜ分子系統なのかを語ろう。
日本列島のオサムシ相形成史
 日本中をくまなく採集していると、妙にオサムシの影の薄い所がある。とくに他と違った環境でもないのにオサムシ相が貧弱、すなわち、種類や固体数が少ないような場所のオサムシは、同種なのに何か違うぞという感覚をもっていた。こういう場所のオサムシは、DNAには変化がありながら、形態はあまり変わっていないことがあると知った。一方、小さなせせらぎの両側で形態や色が異なったり、種類が入れ替わるような変異の豊かな所では、DNAの違いはあまりないのに、急速な形態変化が起きている。
 長い間、自然の中でオサムシとつき合い、その分類をしてきた私にとって、形態変化に惑わされず、系統と分岐年代をはっきりと見せてくれるミトコンドリア(mt)DNAによる系統解析は、新しい世界を開いてくれた。
 しかし、目で見たもの以外は信じられないのが人間というものだ。そこで化石が登場する。オサムシ亜族の化石としては、900万〜600万年前(中新世末期〜鮮新世)の化石種タツミトウゲオサムシ(オオオサムシ亜属の仲間)が日本で一番古い。しかし、これまで現存のオサムシは氷期以降(300万〜200万年前以降の比較的新しい時代)に入ってきたものと考えられていたので、この化石が本当にオオオサムシ亜属かどうかは疑問があった。しかしmtDNAによる系統樹で、オオオサムシ亜属は、1500万年前日本列島形成時に存在していたグループとされるので、900万〜600万年前の化石が出て当然である。300万年以降の第三期鮮新世末から第四期更新世にかけては、オオオサムシ亜属、マークオサムシ、セスジアカガネオサムシ、セアカオサムシなどの化石が見つかっている。これらの化石の種と年代も系統樹と矛盾していない。今後さらに古い化石が発見されると楽しいと期待している。
タツミトウゲオサムシ、マークオサムシ 左/タツミトウゲオサムシ
Carabus(Ohomopterus) sp.FA
鳥取県八頭郡佐治村辰巳峠産(約900万年前)
(提供=大阪市立自然史博物館)
右/マークオサムシ
Carabus(Limnocarabus) clathratus ssp.
三重県桑名郡多度町力尾産(約175万年前)
(提供=林 多成)
(とみなが・おさむ/大阪府職員)
INDEX
  オサムシ研究の歴史:大澤省三
DNA が明らかにするオサムシの多様化:蘇 智慧 + オサムシ研究グループ
形態とDNAの間で:井村有希
チリオサムシにみられる同所的平行進化:岡本宗裕
Special Story