季刊誌「生命誌」通 巻26号
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DNAを描き出す
絵をおこす:川村りら
生命誌研究館は"科学のコンサートホール"。今回は、映像を使ってDNAの構造と働きの一部を"演奏"することにチャレンジしました。まだまだ演奏は手探りですが、舞台裏にはそんな私達を支えてくれた多くの人たちの協力がありました。 「コンピュータグラフィックス DNAって何?」ができあがった過程を皆さんも一緒にたどってみてください。
DNAの二重らせん
DNAがほどけるところと
mRNAが合成される
ところの絵コンテ。
(120K)
 顕微鏡で覗くミクロの世界に色彩はありません。しかし今回の作品では、私がイメージした輪郭を描き、自由に着色を試みました。それはDNAの働きのドラマ性に十分なリアリティーをもたせなければならない作業で困難でした。渡された解説を読み、言葉では理解したはずの仮説も、絵コンテにおこして視覚化してみると、疑問が次々出てきます。そのつど、繰り返し話し合いながら慎重に作画していきました。
 たとえば、TFⅡD(DNAに結合するタンパク質)がDNAを湾曲させるシーンも「TFⅡDはDNAを90度くらい曲げる」という情報しかありませんでした。実際に研究者の方に会い、どういうふうに曲がっているかCGで見せてもらいました。しかし、今回は動く絵をおこすのです。つまり、そのシーンの前後を考えなければなりません。曲がった針金や粘土で模型を作って、「このタンパク質が後ろからこう来て、DNAにくっついて、こう曲げる」など試行錯誤しながら、考えられる限りもっとも合理的に湾曲するよう表現しました。すべてのシーンにそのような類いの試行錯誤が必要だったのです。
 大学で芸術学を専攻した私にとって、分子生物学という学問にわずかばかりでも触れられたことは、非常に貴重な体験でした。細胞中のさまざまなキャスト、それらの驚くべき相互関係。あまりに合理的に、ドラマチックに関与し合っていました。しかも自分の細胞でも同じことが行なわれていると思うと不思議な感じがしました。こんなにも都合良く働いてよいものか?!と驚きながらも、日常の想像をはるかに超えるその世界を視覚化できることに、たまらない喜びを感じる瞬間がたびたびありました。この作品を見た方々にも、私が得たような新鮮な驚きと感動を味わっていただければ本当に嬉しいです。
(かわむら・りら/元富士通SSL・イラストレーター )

INDEX
  正確に研究を表現したい ─ 意味のある絵をつなぐ:工藤光子
「DNAって何?」 ─ 研究者の立場から:升方久夫
音を作る:岩野剛晴
絵を動かす:松木洋+松本順子
Special Story